福祉のこころ 地域医療・包括ケアの現場から (19)local_offer福祉のこころ
社会福祉士 清水道徳
福祉従事者の価値・倫理観に思う
私が勤務する特別養護老人ホームでの一コマだが、10月下旬に施設中庭でハロウィンパーティーと称して、入居者と職員が仮装して昼食をとっていた。参加している職員はみな楽しげであったが、入居者の皆さんはそうではないように見受けられた。「誰が主役の行事なの?」と感じざるを得なかったのである。
特養で勤務する職員は、言うまでもなく介護の専門職つまりはプロフェッショナルである。一般的に専門職の要件は、次の3点が挙げられよう。第1に、専門的な知識を有すること。第2には専門的な技術を有すること。第3には職務遂行にあたり、価値・倫理を有すること、である。
例えば、プロ野球選手を挙げるならば次のようになろうか。第1、第2の専門的な知識・技術については、華麗なプレーとして現れるので、言うまでもない。第3の価値・倫理については、選手がホームランを打ったりするなど、ナイスプレーで観客を喜ばせたいと思ってプレーすることなどはプロ野球選手としての価値観の表れであると思う。
介護職ではどうか。食事・入浴・排泄の、俗にいう三大介助を中心とした専門的な知識・技術については、様々な機会で学んでいるし研修も充実している。介護福祉士の国家資格を取得した人については、その力量に言わば国のお墨付きを得たこととなる。
では、価値・倫理についてはどうであろうか。実は、私はこの支援観・介護観ともいうべき価値・倫理の問題が、介護現場の中に著しく欠如しているように思われてならない。時折マスコミを賑わす入居者虐待の問題は、その最たるものである。冒頭記述のハロウィンパーティーの件で、私が違和感を覚えたのは、職員の取り組み姿勢に、価値観の欠如を感じたからに他ならない。
特養に入居されている方々は、多くの場合、自ら意思決定を行うことが難しい。そのような方々、しかも人生の大先輩に対して、職員の見立てで仮装をさせ、口々に「かわいい!」と口にする光景に、寂しさを覚えた。楽しんでもらいたいという善意からとはいえ、行事全体を通して、入居者の想いから出発したものとは感ずることができなかったのである。
介護観とはこうであると断定するつもりはないが、少なくとも支援者それぞれが持つべきものであり、また日々の実践を通して深めていくものと考える。その姿勢が、支援対象者に対しての礼節でもあると思う。
私は、「課題解決の答えは利用者様が持っている」との考えの下、日々の仕事に励んでいる。福祉専門職は、利用者本位とは言いながらも、様々な経験を通して、課題解決のパターンを知っている故に、利用者様の想いからではない課題解決の方法を提示してしまうきらいがあるように感じるのである。自戒を込め、そのようなことがないよう努めていきたい。
「福祉のこころ」とは、〝その人らしさ〟を守る姿勢の中にあると思う。どこまでも利用者本位の視点を忘れることなく、自らの持つ知識と援助技術をもって、支援にあたっていきたい。