春夏秋冬つれづれノートlocal_offerつれづれノート
ジャーナリスト 堀本和博
今年は晩春の花々が迫る初夏に追われて同時に咲き競うのを楽しめよう
1都3県に残った中国・武漢コロナ禍による緊急事態宣言の解除後に迎える陽光輝く4月であっても、密閉、密集、密接の3密を避ける防災の基本を守り、マスクに黙食など油断のない静かで新しい生活スタイルでもって晩春を楽しみたい。
寒さに身を縮めながらも、今年の冬は昨年冬と同じように暖冬だったと言えよう。私自身は二冬ともマフラーなしで過ごせたのである。暦の上では2月は春でも、例年、1年で最も厳寒の月とされる。その2月、今年は天文学上の時間のズレの調整から124年ぶりに節分が2日に、立春が3日とそれぞれ1日繰り上がった。そして、例年、立春となる4日に東京では、春一番が統計史上最も早く春の到来を告げて吹いたのである。
厳寒の中、万花に先駆ける梅の開花も早く、学問の神様とされ受験生らが合格祈願に訪れる東京・湯島天神境内の名物の梅も、中旬には見頃を迎えていた。約300本20種類の梅(8割が白梅)は例年、早咲き、中咲き、遅咲きと順番に咲くのだが、今年は珍しく同時に見頃を迎えたという(世界日報2月17日付)。
梅のあとは「咲きだす時期が来れば、梅、桃、菜種、連翹(れんぎょう)、こぶし、桜という具合で、契約したように次々と開花する」(山本周五郎『町奉行日記』新潮文庫収録の「わたくしです物語」)春たけなわである。
さて、4月は二十四節気の「清浄明潔」を略した清明(せいめい)が4日で、春のすべてが生き生きとした頃を言う。穀物をうるおす春の雨が降る頃を言う穀雨(こくう)が20日である。そして、陰暦月名が12月の中で唯一、花の名がつく「卯月」で白い卯の花も咲く。チョウが舞い、鳥がさえずるにぎやかな花のシーズンは、サクラに続いて淡い紅、白、ピンクが見上げた先に浮かぶハナミズキ、足元のツツジや皐(さつき)の赤、白、ピンクの鮮やかな原色、黄色い山吹、高貴さを漂わす藤の白紫のシャワーなどが楽しめる。
例年はこれらの花が契約したように順番に花開いていたのだが、近年は湯島天神の梅のように同時に咲き競う花の共演を見られることが多くなった。すぐあとに迫る初夏に追われるように晩春の花々の早まる開花は、今年も例外ではなかろう。芭蕉門下の宝井其角(きかく)に、ツツジの一句〈たそがれの端居(はしい)はじむるつつじかな〉がある。