機関誌「真の家庭」publication

APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」福祉のこころ 地域医療・包括ケアの現場から(42)

福祉のこころ 地域医療・包括ケアの現場から(42)local_offer

社会福祉士・精神保健福祉士 末吉重人

障がい者福祉について (6)

発達障がい(上)

はじめに

二人の若いご夫婦の相談でした。夫は首席で工業系大学を卒業し、大手自動車会社の開発部門に就職。しかし自分の企画を上司にプレゼンする度に「お前の言いたいことがよくわからん」の返事。次第に自信をなくし、うつ的になってきたとの事でした。

ひょっとしたらと思い、筆者は夫の発達検査を提案しました。やや渋る夫を妻が説得し、検査を受けたところ注意欠如多動症の傾向があるとの診断でした。

筆者は、職場での改善策として、一旦、夫の企画を発達障がいに理解のある人に聞いてもらい、その人に説明の組み換えをしてもらう。それを夫が上司にプレゼンするとの提案を行いました。後日、朗報が届きました。

精神障害者保健福祉手帳

精神障がい者には、「精神障害者保健福祉手帳」が指定医の診断によって支給されます。全国共通の名称です。等級は3段階に分かれ、受けられるサービスが等級で異なります。

手帳を保有していなくとも受けられるサービスがありますが、保有したほうが支援は豊富になることは言うまでもありません。2年ごとの更新があります。

発達障がいとは

日本における発達障がいは「発達障害者支援法」(2004年)によって規定されます。コミュニケーションに障がいが出る「自閉スペクトラム症」、冒頭に紹介した「注意欠如多動症」(ADHD)、特定の科目が極端に苦手な「学習障害」(LD)です。世界保健機構(WHO)では精神疾患に分類しますが、わが国では別枠での法整備となりました。この三障がいは、単独というより重なり合って出現することが多くあります。また十人十色の症状になることもあり、それぞれ特徴の出方に違いがあります。

注意欠如多動症

初めに紹介したご主人は注意欠如多動症でした。幼少期は多動性、衝動性が強かったかもしれません。そうしたお子さんの場合、事故に遭いやすい傾向がありますので保護者の方は注意が必要です。飛び出すことが多くあります。

成長につれて多動は消え、代わりに物事を順序だてて行う・複数の情報を同時に扱うことなど苦手な面が目立って来ます。このご主人の場合、上司への説明の際にご自分の認識パターンと上司(「非」発達障がい者)のそれとの違いが表面化してしまったのでしょう。

大学を首席卒業されたことから知能は高いことがわかります。しかし、その知識の積み重ね方が、我々とやや違うため、それをそのまま表現されると「非」発達障がい者にはチンプンカンプンになってしまうのです。

しかし両者の間に通訳者を置くことで、両者のコミュニケーションは可能になります。これを積み重ねることで、両者とも互いを理解しやすくなるはずです。

中間まとめ

近年、発達障がい者支援は、出来ないことに注目するのではなく、出来ることに着目することが強調されます。出来ることを伸ばし、可能なら就労にまで繋げていく視点です。発達障がい者は独特な特徴があるとはいえ、「非」発達障がい者にはない可能性を持っていることもあります。冒頭のご主人などは、新しいアイデアを生み出すのではないでしょうか。そうした「強み」(ストレングス)を支援することで本人の自己肯定感も高まることになります(続く)。