人生を豊かにする金言名句(12)local_offer金言名句
ジャーナリスト 岩田 均
壁に耳あり障子に目あり
英語の翻訳だそうです。そう解説した辞典がありました。ただ、英語では前半の「壁は耳を持っている」(直訳)までですから、「障子に目あり」は日本風につなげたのではないかと思います。実は”障子が出てくるなんて、さすが和製。ほのぼのとしていていいなあ”と、勝手に想像を膨らませていました。
昨今は「障子」と言っても知らない世代が増えているでしょうけれど、どこで誰に聞かれているか分からない、内緒話のつもりが結構漏れているというたとえです。「ここだけの話」とか「あなただけに言うけれど」とか、そういう内容は大概、横へ伝わっていきます。
親しい友人が最近、体験したことです。ある介護施設で、そこを利用する年配女性・田中さん(仮名)が、別の利用者さんに話しかけていました。施設スタッフの佐藤さん(仮名)は聞くともなしに聞いていると、その内容が何と自分の実家に関することだったのでびっくり。
「同じ町内会のお宅に、この間、お焼香に行って亡くなったおばあさんを見たら、ガリガリに痩せていた。昔は太っていたのに、まるで猿のようで気の毒だった」。老後、いじめを受けたかのような話ですが、佐藤さんによれば、太っていたこと自体なかったそうです。それに、故人を「猿」で表現するのも悼む気持ちを疑われかねませんね。
田中さんは続けて、「そのお宅は、自宅のほかにも家を買ったみたい。家族はもうバラバラなのかしらねえ」など、露骨ともいえる陰口が次々。それも尾ひれが付いて。聞き役の女性はといえば、大いに迷惑そう。後で「ああいう話は聞きたくない」と、別の人に漏らしたそうです。
「壁に耳あり障子に目ありだ!」。これほどぴったりする出来事に遭遇することはなかなかありません。佐藤さんが気分を害したのはもちろんです。自分も知らないうちに、他人を傷つけているかもしれないという意識は、いつも持っていたいものです。