機関誌「真の家庭」publication

APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」福祉のこころ 地域医療・包括ケアの現場から(54)

福祉のこころ 地域医療・包括ケアの現場から(54)local_offer

社会福祉士 清水道徳

看取り期のケアで大切なこと

勤務先の特別養護老人ホームでの出来事である。半年前に入居された85歳の男性Aさんは、介護度は要介護3で、認知症・パーキンソン病を疾患として持っている。入居前は奥様とお二人で自宅で過ごしていたが、娘さんが奥様の介護疲れを心配されての施設入居であった。

入居する前、Aさんは食思不振で1か月ほど入院されていた。退院時には、担当医師から食事量の減少に関しては、薬の副作用も原因の一つだが、看取りの時期を迎えていると思われるとの説明を受けていた。

入居後のAさんの食事量は2、3割程度だったが、穏やかに過ごされていた。1か月ほど経つと、食事量が1割程度に減少し、水分量も一段と減少したため、ご家族の希望もあり病院を受診。その結果、食思不振で再入院することになる。1か月ほどで退院されたが、担当医師より、再度、看取りの時期を迎えていると思われる旨、説明があった。

退院されて施設に戻られると同時に、担当医師の説明を踏まえてご家族と話し合いを行った。今後は、食事・水分が摂れなくなっても、そのことを原因として入院はせず、施設内でできる限りの自然な形の看取り対応を行うことを確認した。

Aさんはその後も、食事量は少なく、栄養補助食品のゼリーだけしか口にしなくなった。

それから3か月が経つと、歩くことがままならず、ベッドから起き上がることもできなくなった。その旨ご家族にお話しすると、病院には行かず、施設内での看取り方向で良いとのことだった。

コロナ禍、施設では家族面会に制限がかかっていたが、看取り期であるため、例外的に居室内で面会をしていただいた。面会が終わり、居室からご家族が出てくると、開口一番、「病院に連れて行っていただけませんか」と話される。結果、救急搬送にて入院され、その5日後にAさんは息を引き取られた。

このように、何度も医師から看取り期にある事の説明を受け、納得して看取り対応が始まり、最期が極めて近いであろうその時に、また病院受診を希望されるご家族が、時折見受けられる。

このAさんの事例で、支援する職員の中にはご家族の突然の方針転換に異議を唱える者もいた。入院後5日という短期間でお亡くなりになったことを踏まえ、施設で最期を迎えることがご本人のために良かったのではないかと。

しかし、人生の最期を、どこでどのように迎えるかを決めるのは、支援者ではない。あくまでもご本人であり、本人の意思決定が難しければ、もっとも身近におられるご家族の判断によるべきものと考える。もちろん意思決定の過程において、ケアに携わってきた支援専門職としての意見を述べることは構わない。

支援者としては、他者の人生の一部分に介入することに対して、常に謙遜であるべきだと考えるのである。

入居者のご家族の中には、施設に預けたことに後悔の念を抱きながら日々過ごされている方も少なくない。看取りの時期ともなれば、ご家族の想いは様々に揺れ動く。そのようなご家族の想いを尊重して、気持ちの”ゆれ”に伴走することのできる支援専門職でありたいと思う。