人生を豊かにする金言名句(17)local_offer金言名句
ジャーナリスト 岩田 均
忙中閑あり
小学生の頃だったか、母から言われて覚えましたが、あまり良い意味として使うものではないと感じました。その時、母は家で掃除をしていました。私は、手伝うでもなく、のんべんだらりと過ごしていたのです。「忙中閑ありだね」と。当然、皮肉です。
かなり後になって知ったことですが、母はその頃、本当に忙しかったし、嫁姑関係などで精神的に追い詰められていた状況でした。そんな事情を知らない少年は、何となく気を付けようと思っただけで「閑居」したまま動きませんでした。
ですから、その後もこの意味はポジティブではないと思っていました。会社である時。自分が小休止して、ゆっくりとコーヒーの香りと味を堪能しようとすると、周囲では同僚らが忙しく働いています。そんな姿を見ると、「ああ、自分は忙中閑ありだなあ」と思って罪悪感すら覚えたものです。
辞典の解説は案外とあっさりしたものが多く、掲載していないものもあります。「忙しくて全く暇の無いはずの時でも、何かの折にちょっとした暇はあるものだ」(『故事ことわざ慣用句辞典』三省堂)。となると、私のティータイムは、こちらの意味だったことが分かります。
実は、自分の不勉強に気づいたのは家内の経験を知ってからです。それは、「こういう時だからこそ、きょうは仕事をしないで自由に過ごしなさい。忙中閑ありだよ」と、家内はある日、上司から言われたそうです。当時、ワーカホリックよろしく自由時間とは無縁の日々を送っていたのです。自由に使える時間が予定外にできると、かえって何をしていいのか戸惑うもの。映画に行くか、食事に行くか、ドライブするか。結局、同僚の家に何人かで押しかけて食卓を囲んだそうです。
閑居(あるいは間居)には、いくつか意味があって、その中の一つは「心静かに暮らす」です。こういう過ごし方をしたいものです。そのためには、皮肉と考えたり無理な気分転換を試みたりしてはいけませんね。自分に合った時間と空間を見つけたいものです。