機関誌「真の家庭」publication

APTF 公式サイト機関誌「真の家庭」人生を豊かにする金言名句(40)

人生を豊かにする金言名句(40)local_offer

ジャーナリスト 岩田 均

洛陽(らくよう)の紙価(しか)を貴む

印刷の仕事に関わっていると、このことわざを思い浮かべることがあります。「貴む」は原文に沿った表記で、今は「高める」とする方が多いようです。意味は、「著書の売れ行きがよいこと」(三省堂『故事ことわざ・慣用句辞典第二版』)ですが、由来をたどってみましょう。

「晋(しん)の時代、左思(さし)が十年かかって作った『三都(さんと)の賦(ふ)』という文章が人々に賞賛され、大いに評判が上がり、都の洛陽の人々は争ってこれを写して読んだ。そのため洛陽では、紙の値段が高騰した」(同)と。これは、中国晋朝の歴史について書かれた『晋書』に出てきますが、左思は3世紀ころの文学者です。

こんな説明もありました。――紀元前後、紙はまだまだ貴重品でした。文学作品は読み回しをするのが当たり前。これはと思う作品は、読者が手元に置くために書き写した…。(小学館『故事成語を知る辞典』から要約)

今日では、紙の値上がりよりも、「著作がベストセラーになって、著者や出版社が大きな利益を上げること」(同)として使われています。

東京・文京区にある印刷博物館に行くと、印刷の歴史が分かります。人類最初の活版印刷はグーテンベルクが発明しました。最初に刷られたのが聖書。世界史の復習と好奇心で、この博物館を見学したら楽しめるかもしれません。

ところで、そうした機械がなかった時代は、人が手で書き写すほかはありませんでした。日本史ともなじみのある仏典もそうです。僧侶らが昔の中国に渡って書き写し、日本に持ち帰ってきました。遣隋使、遣唐使などです。

今でも、紙は大切に扱いたいものです。貴いといえます。再利用されたり植林をしたりしています。紙を扱う業界(作る側も使う側も)ではそれが当然のことになりました。今後は電子書籍の時代でしょうか。そうなると、ベストセラーになった時、このことわざを使っても意味合いが分からなくなりそうですね。