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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

動きだした春の自然を楽しめるおが屑の道

本稿が皆様のお目にとまるのは3月初めであるが、原稿の締め切りはその2週間ほど前、立春から10日ほど過ぎた頃である。暖冬だった昨年と違って、今年の冬は例年通りの寒さだった。

そして、東京では立春のあとも寒い日が続いて1週間のうちに2回も雪を降らせた。わずか3センチほどの積雪だったが、雪慣れした北国と違って都会では陸に空に交通機関が混乱し、道路で滑ってけがする人が続出する騒ぎとなった。

俳句の季語(季題)は「季節の感じを表すために、特に定めた四季のことば」(角川国語辞典)で、雪は冬の季語であるが、立春後に降ると「春雪」で春の季語となる。「淡雪」や「牡丹雪」も春の季語で、同じ雪であっても季節の移り変わりとして区別される。そのけじめから、何とはなしに何かが生まれる、あるいは何かが始まる希望、ある明るい感じが伝わってくるようだ。

四季は、二十四節気を四つに分けて、それぞれ六つの節を持つ。これを順に二つの節ごとにまとめて、春は初春、仲春、晩春の三つに分ける。立春と雨水の二つの節の初春から、3月は5日に啓蟄、20日に春分を迎える仲春となる。いわば春真っ盛りに入る。

雨水の先月19日は、一節気が三つの候からなる七十二候では「土脈潤起」。啓蟄の日の七十二候は「蟄虫啓戸」で、土が湿りけを帯びてくると、冬眠していた虫が動きだし穴から出てくる。だが、自然界ではボーッとはしておれない世界もある。

「啓蟄を啣えて雀飛びにけり」(川端茅舎)

それでも、弱々しかった陽光が力を増し日照時間も伸ばし、草木が芽生え、水も温む。うぐいすが鳴きはじめ、梅の便りも届きはじめる中で、最も春が動き出したのを感じさせるのは足元の土の感触である。ぬかるみも、春の温かさを感じさせる。

東京ではなかなか土の道を歩けないが、私のウォーキングコースの一つ井の頭公園内の玉川上水沿いに土の道がある。毎年今ごろになると、ここにおが屑を敷いてコーティングされる。今年はまだ歩いてないが、足元の絶妙なクッションと動きだした春の自然を楽しみながら歩くのは、私には貴重でぜいたくな時間である。