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愛の知恵袋4

家庭問題トータルカウンセラー 松本雄司

「大人になるということ」

高校生の娘が妊娠

先日、「子供のことで相談があります」という一本の電話があり、Aさんという中年のご夫婦が訪ねて来られました。

Aさんの息子のM男君は21歳の大学生。その息子がB家の娘のN子さんと付き合っていましたが、つい最近、妊娠していることが発覚したというのです。 N子さんはまだ高校生です。実は、この二人は2年前にも同じ問題を起こしていました。娘の様子がおかしいのでB家の母親が詳しく聞くと妊娠していることがわかり、両親は動転し、対応に苦慮しました。結局、このときは両家で話し合って、「もう二度とこのようなことはしない」と約束させて、病院に事情を話して人工妊娠中絶をしてもらいました。

ところが、2年もたたないうちにまた妊娠騒動が起きてしまったのです。今回はもっと深刻で、胎児をおろしたくない彼女が親にわからないように隠してきたので、B家の両親が気がついたときは、既に、妊娠6ヶ月になっていたのです。

一通りのお話を聞いた上で、私は、諸事情からみて、この胎児を中絶すべきではないし、結婚をした方がよいと判断しました。確かに彼らはまだ大学生と高校生で、親になるにはあまりにも未熟で若すぎますが、彼女が高校を卒業したら結婚をさせて、その胎児もきちんと出産して、責任を持って育てる。その上で、ご両親は必要なことを彼らにサポートしてあげるのがよいと思います、と話しました。

「それしか道はないのでしょうか」と言われるので、理由も、ご両親に話しました。「法律的にみても、人工妊娠中絶が許されるのは妊娠22週未満ですし、12週以降の中絶でも死産届を出すことが義務づけられています。それに何よりも、彼はもう20歳を過ぎたれっきとした『大人』であり、自分のしたことに対して責任をとるべきです。もし、今回も親が尻ぬぐいをしてあげれば、彼はいつまでたっても『大人』になれない『甘え人間』になってしまうでしょう。それは彼のためにも決して良いことではありません。若い彼らの結婚生活は、様々な点で困難があるでしょうが、それも自分の責任として甘受していくべきだと思います」。

大人とは何なのか

大人と子供は何が違うのでしょうか。体の成長度や思考力、経験や分別力、社会的身分や経済力の違いもありますが、大人の世界と子供の世界のもっとも重要な違いは、「責任の取り方」ではないかと思います。未成年の間は、不始末を犯しても、半分は保護者としての親の責任ですが、大人とは、「何をしようとも自由であるが、自分のしたことに対しては、必ず自分で全責任をとる。また、それ故に自分の責任のとれないことは決してしない」ということが、本来の”大人の世界の鉄則”なのです。それ故に社会で犯罪を犯しても、未成年者は刑罰が酌量されて特別に保護されますが、成年者には、厳格に法が適用されます。その意味では、自分のしたことに責任を持たない人物は、たとえ年齢は成人に達していても、精神的には未熟な子供でしかないのです。

実の娘以上に、嫁を大切にする

じっと聞いておられた父親のAさんが、先に口を開きました。「私もそうするしかないと思っていました。しかし、家内は絶対にいやだと言うんです」。

母親は、以前の騒動のこともあり、当然N子さんとは面識もありました。「高校生の時から髪を染めて遊んでいるあんな子を、自分の跡取り息子の嫁として受け入れることは絶対にいやです」と言います。しばらく話し合いましたが、「そうするしかないだろうと頭ではわかったのですが、自分は彼女を嫁として愛せる自信がないし、生理的に受け入れられないんです。そこが苦しいのです」ということでした。

私は最後に、こう話しました。「ところで、お母さん、娘さんと嫁に来るN子さんと、どちらが可愛いですか?」「それはもちろん娘の方が可愛いに決まっています」「それはそうでしょうね。でもこれからは、そのお気持ちを切り替えて、彼女を受け入れて大事にしてあげてほしいんです」「・・・」「あなたの娘さんがいかに可愛いといっても、一生家にとどめておくわけにはいきませんよね」「それは、そうです…」「娘さんはいずれ他の家に嫁いで、やがてはその家の跡継ぎを生んで、立派に育てていかなければなりません。そうすると、自分の家の跡取りを生み、それを育ててくれるのは、娘ではなくお嫁さんですね」「・・・」

しばらくの間、お母さんはじっと考え込んでいました。やがて、うつむいたまま、独り言をつぶやくように言われました。「そうか…、そうなんですね…。私は自分の娘以上に彼女を愛して、大切にしてあげなければいけないんですね…。わかりました。」そう言って、何か意を決したように顔をあげたその母親の目には、大きな涙が浮かんでいました。