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誌上講演会

真の家庭運動推進協議会会長 徳野英治

幸せの始まりは家庭から(上)

世界を回って感じたこと

私は2001年に日本を出て、アメリカで約3年、韓国で1年弱、アフリカで3年間活動してきました。日本で学生組織の責任者を約6年間担当していた間には、中国の胡錦濤国家主席もかつてその代表を務めていた中華青年連合会と公式に交流しました。12回訪中して、北京をはじめ上海、天津を訪れ、人民大会堂で何度も交流集会の挨拶のスピーチをし、北京大学をはじめ七つの大学で講演したこともあります。ヨーロッパや南米は旅行で訪れ、訪問した国は50カ国を超えるでしょう。アフリカだけで27カ国を回りました。

世界で最も豊かなアメリカと、最も貧しいアフリカを見てきた上で日本に帰国したので、感じること、考えさせられることが数多くあります。

日本に比べてアメリカは、すべてにおいてスケールが違います。道路も4車線、5車線が普通です。一度アメリカで暮らすと、狭い日本に帰って来るのが嫌になります。アメリカに比べると日本の家はまるでマッチ箱です。

日本の自然がどんなに素晴らしいといっても、アメリカの壮大なグランドキャニオンやナイアガラの滝とは比べることができません。そのスケールの違いがあまりにも大きいからです。

そして、良い意味でも悪い意味でも、文字通り全世界がアメリカの影響を受けています。例えば、ハリウッド映画は全世界に輸出され、各国で上映されています。ハリウッド映画の価値観が世界のスタンダードのようになって広がっているため、その影響力は言葉で表現できないほど大きなものです。

全世界の人たちが豊かなアメリカにあこがれ、アフリカの人たちにとってアメリカのビザは天国行きの切符のようなものです。いったんアメリカに渡ると、二度と自国には帰ってきません。それくらい、アフリカの人たちにはアメリカは地上の楽園なのです。しかし、そのアメリカも、その内部に観察の目を向けると、実に深刻な問題を抱えています。

華々しく北京オリンピックが行われた中国でも、多くの友人が私に告白しました。「中国は表向きは共産主義ですが、本当に共産主義を信じている人はほとんどもいません」と。深刻なのは、家庭倫理を説く儒教の本場の国である中国でも、家庭崩壊が恐ろしいスピードで進んでいることです。その端的な現象が離婚率の急増です。孔子が生まれた儒教の本場、中国でも、それが現実です。

アメリカに至っては、スワッピングなどというものがはやっています。何組かの夫婦が集まってパーティーを開き、二次会になると互いに伴侶を交換して、別の相手とセックスするわけです。アメリカ映画を見ると、ステップマザー(継母)やステップファーザー(継父)の家庭が日常茶飯事のように出てきて、まるで、それが当たり前であるかのようです。そこからも、アメリカの離婚家庭の多さがわかります。

アフリカで存在感増す中国

アフリカに比べると日本の豊かさは確かに世界第2位です。アフリカでは日本人であるだけで、日本から来たというだけで、大変尊敬されます。ただ残念なことは、日本人はどんどんアフリカから出て行き、その後に中国人が入ってきていることです。

アフリカ各国の大臣にも会い、12人以上の大統領とも会いました。18回、VIPのセミナーを主催し、講義も担当しました。参加者の数は1000人を超えます。

西アフリカのベニンという小さな国で会った外務大臣が、「日本から来た方を、こんなオフィスにお迎えするのは恥ずかしい。でも来月には、今建てている新しいビルに移りますから、今度はそこでお会いできます」と言いました。よく聞いてみると、中国の援助で建てているというのです。

どの国に行っても、目立つ大きなスタジアムやサッカー場、中には国会議事堂や国会議員会館まで、ほとんど中国が建てています。その代わり、中国は石油やダイヤモンドなどの資源を獲得します。露骨なバーター取引ですが、中国のアフリカ進出は極めてしたたかで、戦略的です。残念ながら日本政府にはそんな戦略はありません。人道的な援助を行うODA(政府開発援助)も、今や世界第6位に下がりました。1990年代は第1位でしたが、財政難が続いたため、大盤振る舞いする余裕がなくなってきたのです。

日本がODAを供与しているもう一つの理由は、国連安全保障理事会の常任理事国に入ることです。今、国連加盟国は192カ国で、そのうち約53カ国がアフリカにあります。アフリカにODAを投入しているもう一つの理由として、その53票の存在感があると思われます。

アフリカの政治家によく言われるのは、「日本はあまりにも豊か過ぎて、日本人はアフリカでの生活に耐えられないから、多くは短期間に帰国してしまう。大手商社や一流企業の社員たちも少し内紛めいた事件が発生すると、すぐにみな帰ります。でも中国人は、アフリカ人と共に汗を流してくれます」ということでした。

そして、「残っているのはトヨタの車だけで、日本車を見ることはできるが、日本人を見ることはできない」と言うのです。そんな話を、私は何度か聞かされました。

そのように逞しく、したたかな中国も、社会の深層部にメスを入れてみると、共産主義は名ばかりで、倫理道徳の基準は徐々に崩壊しつつあり、家庭崩壊も極めて深刻なのです。

秋葉原通り魔殺人事件

7年ぶりに日本に帰国してテレビや新聞を見ると、日々の報道に唖然とします。世界を回ると、改めて日本の豊かさと偉大さを痛感しますが、最近の日本社会を騒がせているのは、通り魔殺人事件や家族殺人事件です。

6月8日の日曜日、秋葉原の歩行者天国で、一人の青年が17人を殺傷する事件が起こりました。7月22日には八王子の駅ビルで、書店で働いていた何の関係もない女性店員が殺されました。7月19日には埼玉県川口市で、中学3年の女の子が、寝ているお父さんを殺しています。こういう事件が頻発するのはなぜでしょうか。これを解決する道はあるのでしょうか。

それぞれの事件を分析してみますと、原因の50%以上が家庭にあるといわれています。秋葉原事件や八王子事件の犯人は警察の調べに対して、「仕事がうまくいかなくてむしゃくしゃしていたので、誰でもいいから殺したかった」「親が自分の言うことを聞いてくれない。大きな事件を起こせば報道されて、親はやっと自分のことを振り向くだろう」などと犯行の動機を語っています。

つまり、「親の愛が欲しかった」というのが一つの大きな動機でもあります。悲惨な事件の根底にある単純な動機は、親の関心を自分に向けさせるためのいたずらのようなものだったのです。殺す相手は誰でもよかったというのは、殺された人たちにとって、たまらないほど理不尽なことです。犯人に何の恨みを買ったわけでもないのですから。

秋葉原通り魔事件などについて、派遣社員の待遇の厳しさや格差社会の問題を指摘する人たちもいますが、それはすべての原因を社会環境に転嫁しようという、間違った考えです。その犯人たちの境遇は、それほどみじめなものではありません。むしろ大きな問題は、彼の生育過程にあったと言えるでしょう。

家庭の価値の見直しを

こういうお話をしたのは、それほどまでに家庭が大事だと考えるからです。教育の一般論としても、家庭によって私たちの人格の70%が形成されるといいます。

家庭教育の大切さ、家庭の価値の貴さを、私たちは今こそ見直すときです。そうしない限り、このような社会病理現象はなくなりません。多くの犯罪は、心の病気から始まっています。犯人たちを精神鑑定しても、明確な精神病という結果は出てきません。

父親を殺した川口市の女の子は、夜に父親が家族を皆殺しにする夢をみたというのです。それで起き上がると、なんのためらいもなく父親を殺してしまいました。日ごろから家族関係が悪かったことは言うまでもありません。それに加えて、ホラー漫画などの有害情報の影響をもろに受けているのです。

その背景には、有害情報を規制することのできない日本社会の現実があります。政治家の方たちが、有害情報を規制する法律を作るために努力していますが、遅すぎると言っても過言でないほど事態は深刻です。

ファミリーフェスティバルというタイトルの下に、私たちはきょうだけでなく、日常生活の中で、地域社会や隣人の方々に、家庭の価値、家庭の大切さを喚起していただけるよう継続的に働き掛けていく必要があります。