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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

清貧の中にも凛とした気概で聞く鐘百八つ

燗徳利に生けられた水仙が、底冷えのする長屋に凛とした香気を放っていた。師走に入り、急に寒気が増した。

水仙は宮戸川の女将のおさよが、

「坂崎様、頂き物ですが、水仙をお持ちになりませんか」

とくれたものだ。だが、長屋に戻っても一輪挿しや花器など気の利いたものがあるわけもない。そこで思いついたのが燗徳利だ。(『探梅の家』)

平成のベストセラー時代小説「居眠り磐音江戸双紙」(佐伯泰英著・双葉文庫)シリーズ12は、清貧の中にも凛とした気概をもって生きる主人公が迎えた師走を、こんな表現で書き出している。

こんな落ちついた心で今年の師走を迎えられる人は、そう多くはないであろう。

今年は、北京五輪で世界が大きく盛り上がり明るい1年となるはずの年だったが、その期待は暗転した。新春早々から、禁止農薬(メタミドホス)入りの中国製ギョーザで重症者が出るなどの大騒ぎがあり、その後も中国製食品などで次々と禁止農薬などの混入が続いた。毒ギョーザ事件は今もって原因究明がなされないため、中国製品全般にわたる拭いがたい不信を広げている。

肝心の北京五輪も、開催にあたって人権状況を改善するとした中国の約束は守られていなかった。このため、米国やフランス、ドイツなど先進国での聖火リレーは、チベットなどの弾圧に同情し抗議する人々の激しいデモなどの嵐の前に、大幅なコース変更・縮小をして、ようやく挙行した。4年に一度の競技自体は無事に行ったものの、卓越、友情と尊重を掲げ世界を明るくするスポーツの祭典とはほど遠いものとなったのは否めない。

そんな中で前号で触れたように、南部陽一郎氏ら3人のノーベル物理学賞、下村脩氏の化学賞と4人の受賞は日本人を大いに勇気づけ元気づけてくれた。が、米国ウォール街発のサブプライムローン破綻の大津波には日本も被害を免れない。その対応に大童の中で迎える師走である。

水仙にたまる師走の埃かな 高井 几董

煩悩を消すという大晦日の百八の鐘の音に聞き入った次は「初暦知らぬ月日は美しく」(吉屋信子)と、真っ白な気持ちで希望のカレンダーをかけたいものだ。