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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

バウムクーヘンの夢

何もトヨタとソニーだけが日本を代表する世界的企業というわけでもないのに、この2社の赤字転落ショックに今や日本中、いや世界中が萎縮した明るくない年明け。ユニクロのように、これまで最高の増収増益を計上したところもあるというのに。あやかって、不景気風を吹き飛ばしていきたいものである。

こんなときは、ちょっと突拍子もない話でも、明るく楽しい話がいい。

友人の家は三世代が一つ屋根の下に生活している。小学校6年と4年の二人の腕白坊主がいて、子供たちに人気があるのは母親よりも60代後半になる祖母、おばあさんの方だという。

母親は「祖母は娘の私には甘くなかったのに、今は孫にメロメロだから」と、ちょっと不満そうに言うが、父親の目にはそうでもないらしい。年の功というのか、結構厳しく叱るときもあり、時に叩くことも。そのメリハリの効いていることに感心するという。

人からバウムクーヘンを頂いたある日のこと。6分の1ずつに切りわけて皆で食べようとしたとき、弟の方が「ぼく、それ一人で、ぜーんぶ食べたいな。ダメ?」と言いだした。「まあ、何を言いだすの。当たり前でしょ」と、即座に母親。

このときは、それで話は終わって6分の1切れずつを食べたのだが、後日、祖母は弟に「どうして、ぜんぶ食べたかったの?」と聞いた。「ボク、大好きなバウムクーヘンを一度、ぜんぶ食べてみたいというのがずーっと夢だったんだ」と弟。「そうか、夢か。夢ならかなえてあげないとね。ただし、一度だけだよ」と祖母。

数日後、夢がかなった舞台は何とお風呂場だった。風呂のふた板をテーブルに、ひとり湯につかりながら紅茶を味わい、バウムクーヘンを平らげ満足したという何ともおいしい話である。もちろん、祖母が兄の方にも別の希望をかなえる手当てをしたことは言うまでもない。

子供のときに抱いた少し変わった夢を全力でかなえてくれた祖母との楽しい思い出は、その胸の中で成長とともに大きく膨らみ、消えることなく生きる強い力となっていくに違いない。

立春の二月は梅の季節。 風さむき 霜夜の月に 世をいのる ひろまへきよく 梅かをるなり (昭和天皇御製・昭和20年)