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誌上講演会

真の家庭運動推進協議会副会長 稲森一郎

家庭再建こそ世界を救う鍵

世界的な経済混乱と人類の苦悩

現在、世界は金融危機、金融崩壊に見舞われており、実体経済にも大きな影響が出ています。衣食住、電化製品、自動車、エネルギーなどを中心とした経済産業社会の仕組みが金融機構に大きく担われていることは否定できませんが、その金融の世界、すなわち、銀行、投資銀行、証券会社、保険会社などの金融業界に、サブプライムローン問題で象徴されるように、飽くなき利潤追求の余り、モラルハザードが起きました。

ここ最近、言われ続けてきた「勝ち組」「負け組」といった競争至上主義、短期スパンで高利益を上げようとするハイリスク・ハイリターン型、レバレッジ効果型の利潤追求システム、株主への高配当を優先させる株主至上主義といった米国的経済思想、ウォールストリート的金融工学の経済社会が、人間の精神を非常に利己主義的な状態へと追い込み、極度の精神的緊張状態を人々に強いる結果となっていることは紛れもない事実です。

そこで考えなければならない問題は、経済の仕組みをどうするかという問題になりますが、究極的には、会社益、国益といった基準を超えて、人類全体が共生共栄できる人類益、世界益、国際益のグローバル・ガバナンスを実現する経済システムになっていかなければならないと考えられます。それは、人類を一つの家族と見る考えに基づくものであり、家庭の中で、夫婦、親子、兄弟が仲良く幸せに暮らすように、人類という一大家族が真の愛によって結ばれ、仲良く暮らすということにほかなりません。

このように考えてみますと、世界的な経済混乱も、ある意味では、みんな一緒に家族のように生きるという「家庭思想」「家族思想」の欠如がもたらしたものであると考えることもできます。

ウォールストリートの五大投資銀行のうち、ベア・スターンズがJPモルガン・チェースに買収され、メリルリンチはバンク・オブ・アメリカに買収され、リーマン・ブラザーズが破綻し、残りの二つ、ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーは普通の銀行になったという経緯を見るならば、「巨大投資銀行」はウォールストリートから姿を消したことになり、モラルを忘れた金融工学仕込みの金融商品(証券化商品)に対する投資によって莫大な利潤を追い求めた五大投資銀行の運命は、天の審判を受けたとも言えます。

何が問題であったのか、冷静に考えてみますと、みんなが仲良く一緒に、平和に、愛と信頼に結ばれて生きる「家庭」「家族」というシステム、一見、経済とは何の関係もないような「家庭共同体」「家庭システム」「家族的心情組織」「家族愛」なるものが、実は、非常に重要な問題であり、そこに理想的な経済システムへのヒントが隠されていると言っても過言ではありません。

現代経済社会が南北問題(先進国家群と貧困国家群の経済格差をめぐる問題)に見られるような極端な格差世界を作り上げている要因を考察するならば、それは「家庭」「家族」という概念を忘れた弱肉強食の経済理念を振りかざしているからだと思われても仕方がないでしょう。単純に「自己責任」という言葉だけで片付けることのできない問題があります。

家庭崩壊と人心の荒廃

先進国、開発途上国を問わず、世界で進行する家庭崩壊の問題は深刻なものがあります。世界が抱える多くの問題の中で、本質的な意味では、この家庭崩壊という問題が一番、根の深い問題であり、軽んじることのできない問題であると言えます。

なぜなら、家庭はモラルの習得場所であり、倫理の根拠地であるからです。家庭が崩壊すれば、その家庭を構成する一人一人のモラルに甚大な影響を与え、心が荒廃する原因を作ってしまい、その結果、正しいモラルを持って社会生活を送ることができなくなります。社会のモラルが崩れているのは、家庭でのモラルが崩れているからであり、学校、企業、政治、医療、その他、全般的なモラル崩壊は、結局、現代日本の家庭が深刻なモラル崩壊に陥っていることを意味すると言ってよいでしょう。

具体的に、家庭でのモラル崩壊とは何を言うのでしょうか。家庭の中での人間関係の希薄化、あるいは人間関係の崩壊を言います。夫婦関係、親子関係、兄弟関係における心情関係が薄くなる、あるいはお互いの思いやりがなくなる、さらに、意見衝突、協力関係の拒絶、憎悪、疑念、不信など、こういったことが頻発すれば、家庭は平和と憩いの場ではなくなります。

もっと言うならば、信頼と愛の崩壊です。夫が妻を、妻が夫をお互いに信頼していない、愛していないという状態です。親が子供を、子供が親を信頼していない、愛していないという状態です。兄弟同士が愛し合っていないという状態です。愛の喪失、信頼の喪失です。モラルの中のモラルは「愛」「思いやり」と言ってよいでしょう。これが家庭の中で失われた場合、人はどうやってそれを学び、体得することができるでしょうか。社会が殺伐としてきているのは、「愛の家庭」「思いやりの家庭」「信頼の家庭」が失われてきた結果、社会も同様に、愛のない社会、思いやりのない社会、信頼のない社会へと変貌を遂げてくるようになったのです。

数々の、日々起きる事件やニュースの特徴は、何と愛のない恐ろしい事件だろう、これが人間のやることか、といったものがあまりにも多く報道されることです。冷めきった、キレたら何でも平気でやらかすような、そんな事件が多発しています。利害関係からのみ人を見る風潮、貪欲にカネとモノのみを求める社会、カネのためなら「オレオレ詐欺」でも何でも平気でやる若者たち、これは、他者に対する思いやりと愛を完全に失ったことから来る犯罪の数々であると言わざるを得ません。そのような人間を作り出す土壌になってしまっているのが現代の家庭であるとすれば、家庭崩壊の恐ろしさをいまさらながらに認識せざるを得なくなります。

家庭再建がすべての問題解決の鍵

日本のみならず、世界のどの国でも、家庭を再建することから始めなければならないというのが、あらゆる問題解決のための根本的な処方箋と言えるでしょう。真の愛の心情に満ちあふれた温かい社会を作るために、真の愛の家庭を築くこと、これが今、世界に願われている最も根本的な事柄です。

家庭再建の原理は何か。それは、「ために生きる」という生活原理です。「ために生きる」という精神こそ「愛」と呼ばれるものの正体です。

夫は妻のために、妻は夫のために、そのように生きる以外にありません。そのような夫婦は強固な夫婦愛で結ばれます。親は子供のために、子供は親のために、そのような心情関係で親子が強く結ばれれば、揺るぎない家庭となります。兄弟姉妹が仲良く助け合いながら生きるならば、どんな風雪にも耐えて生きていけるでしょう。

具体的には、家庭の中で「奉仕活動」を始めることが、一つの提案として挙げられます。夫は妻を助けるために何か奉仕する、妻は夫を助けるために何か奉仕する、そのように奉仕し合うことを夫婦の間で始めたらどうでしょう。夫婦で一緒に何かをやる共働というのもいいでしょう。一緒に散歩するところから始めるのもいいかもしれません。会話も多くしなければなりません。お互いの間に秘密事があってはなりません。

家庭は愛の源泉であり、幸福と平和の基地であるという確固たる信条を持って、家庭再建に取り組むことを日本全国の隅々から始めてまいりましょう。家庭が愛と平和に満ちあふれるとき、社会は必ず明るくなっていくはずです。政治も経済も家族主義的な愛の一体感を深めてこそ、社会と国家に創造的なエネルギーがあふれることでしょう。