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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

“白い手裏剣”山法師の散歩道から

「四月なかば、ひるごろの事である。頭を挙げて見ると、玉川上水は深くゆるゆると流れて、両岸の桜は、もう葉桜になっていて真青に茂り合い青い枝葉が両側から覆いかぶさり、青葉のトンネルのようである。……」

久しぶりに「風の散歩道」を歩いたのは5月の半ばのこと。東京・井の頭公園沿いに進む吉祥寺通りが玉川上水と交わるところに、長さ・幅ともに約16メートルの四角い萬助橋が架かる。この萬助橋から上水沿いJR三鷹駅(中央線)まで上って行く約800メートルほどの車道を挟んだ石畳風カラーコンクリートの洒落た歩道が「風の散歩道」である。

途中に、「路傍の石」などで知られる山本有三記念館の瀟洒な建物や、近くで自ら39歳の生涯を終えた太宰治が「乞食食堂」でこの辺りを描いた冒頭の一節を刻んだ銘版と故郷の青森・金木町(現・五所川原市)産出の玉鹿石の無銘碑がある。ちなみに太宰の命日は6月19日。

だが、目当ては太宰ではなく、ここの並木に咲く白い花の花見である。花の集まりが白い頭巾をかぶった坊さん(法師)に似ていることから、ヤマボウシ(山法師)の名が付いたというが、花の形はむしろ手裏剣のイメージ。7、8年前に初めて、咲き重なる真っ白い花々を見上げた時は、まるで忍者の放ついくつもの白い手裏剣が尾を引いて飛んでくるような幻想の世界に入ったようで、その白い形が傘状に広がって忘れがたい壮観な印象を残したからである。

梅雨前から梅雨時に咲くとされる山法師だが、この2、3年は見逃してきた。ここでも温暖化の影響なのか、梅雨入り前の6月でも、既に手裏剣は飛んでこなくなっていた。今年は先手を打ったつもりで早く出掛け“忍者ごっこ”を楽しめたが、それでもぎりぎりのセーフ。読者の皆さまには写真で楽しんでもらうしかない。

6月は山法師だけでなく、白い花の凛とした白さがひときわ映える。5月は薫風とさまざまな草木の緑葉の美しい月であるが、6月の青葉もそれに優るとも劣らず個性と潤いある落ちついた深緑の美しさをたたえる。

その美しい緑との鮮やかなコントラストをなす、道端のドクダミから庭先のジャスミン、卯の花、クチナシ、水辺のハナショウブ、カラー、ミズバショウにスイレンなどが、潤いある白い花の季節を彩る。梅雨に映えるのはアジサイだけではないのである。