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父の子育て7

コラムニスト 大森浩一郎

勉強よりも大切なもの

中学生の長女は、学校の成績が優秀であるとは言えない。しかし私は、それほど心配していない。むろん、成績を良くする努力は必要だが、仮に成績が伸びなくても不幸になるとは限らないからだ。

そんな長女が保育園に通っていたころの話だ。保育園生活最後の発表会で、劇を演じた。演目は「人魚姫」。長女は脇役の「街の人」だった。主役の「人魚姫」を演じたかったが、希望者が多く、ジャンケンで負けてしまったのだ。脇役に決まったときには、ひどく落ち込んでいた。発表会が終わって数日後、長女がポツリと言った。

「発表会で泣いちゃったんだ」

私と妻は、「そんなに脇役で悔しかったのか…」と思った。しかし、次の長女の言葉に、私たちは驚いた。

「だって、人魚姫が泡になって、かわいそうなんだもん」

芝居だということも忘れ、かわいそうな人魚姫に涙を流してしまったのだ。「この子は、他人の喜び、悲しみを、自分のものとして感じられる『共感性』に恵まれている」と思った。

また、小学1年生のある日、お気に入りの天使の絵が描かれたバッジを胸につけて走っていた長女は、石につまずいて転んでしまった。しかし、運良く怪我をしなかった。そのときのことを、熱っぽく、こう報告してきた。

「天使が抱っこしてくれて、守ってくれたんだよ!」。本当に天使が出てきたのかどうかは分からない。しかし、「何かに守られ、生かされている」と実感していることは事実のようである。

人々が共感性と、他者に生かされている実感をもてば、戦争や犯罪はなくなる。勉強も大切だが、私は長女のこのような感性を伸ばしたい。そのほうが、きっと素晴らしいお母さんになれると思うのだ。

子供にはそれぞれ個性がある。親はそれを的確に把握し、伸ばしてあげたいものだ。