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父の子育て8

コラムニスト 大森浩一郎

お礼の手紙

数年前、妻の職場の近くに野菜の直売店ができた。現役を引退した農家の老夫婦が、老後の楽しみとして開いた店だ。店といっても、場所は老夫婦宅の玄関先。それほど広くないテーブルに、季節の野菜が並べられている。高齢の老夫婦は、四六時中は店番ができない。そこで人々の良心に期待し、「お金はここに」と書かれた空き缶を置いている。

新鮮な野菜に惹かれて妻が品物を選んでいると、家から老夫婦が出てきた。妻を見るなり、「お金、払ってよね」と言った。妻は一瞬ショックを受けた。しかし、心無い人々の行為で傷ついているのだと思うと、慰労したい気持ちが大きくなった。それ以来、わが家の食卓には老夫婦が作った野菜が並んだ。

ある日、その店で買ったカボチャを煮て食べた。とても甘くて、家族全員が「おいしい」という言葉を連発した。当時9歳だった娘は、早速お礼の手紙を書いた。

「おじいさん、おばあさん。おいしいやさいをありがとう。みんなでモリモリ食べています」

このような文面の下には、私たち家族が笑顔で食事をしているイラストが描かれていた。数日後、妻が店に行くと、ちょうど老夫婦が野菜を並べているところだった。嬉しそうな顔をしていた。ふと見上げると、玄関のドアに、額に入れた娘の手紙が掲げられていた。

また次男が1年生のころ(3年前)、鍵を持たないで学校に行ってしまい、帰宅したときに家に入れないことがあった。困って玄関の前で泣いていたときに、「となりのおばちゃん」が声をかけてくれ、長男が帰ってくるまで隣家で預かってくれた。翌日、次男はイラストとひらがなで綴られたお礼の手紙を、「となりのおばちゃん」に手渡しました。

それ以来、「となりのおばちゃん」は次男を可愛がってくれている。金曜日は妻の帰りが遅いことを知った「となりのおばちゃん」は、次男の好物である鳥肉の唐揚げを、ほぼ毎週作って届けてくれるようになった。

日常的な些細なことでも、感謝の意を表せば相手は喜ぶ。それが手紙であればなお良い。長い間、消えずに残るからだ。特に子供には、お礼の手紙を書く習慣を身に付けさせよう。豊富な人間関係が築かれ、人格の形成に大きく役に立つはずだ。