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父の子育て14

コラムニスト 大森浩一郎

楽しい儀式

数年前まで、わが家では毎月末、CDコンポから2曲の音楽が流れていた。

1曲目は、CMやドラマでしばしば使用されている「威風堂々」(エルガー作曲)。タイトルは知らなくても、誰もが一度は聞いたことがある曲だろう。講演会などで、講演者が登壇するときのBGMにも用いられる荘厳な曲である。

2曲目は、「勝利を讃える歌」(ヘンデル作曲)。こちらも、スポーツ競技の表彰式などでなじみ深い曲である。

月末の夜、私が帰宅すると、妻はすかさず「威風堂々」を流す。すると3人の子供たち(当時、小学生以下)が玄関まで飛んできて、拍手で私を迎える。

居間に入ると、今度は「勝利を讃える歌」が始まる。私はおもむろに鞄から封筒を取り出し、妻に渡す。妻と子供たちは深々と頭を下げる。その後、「お父さん、ありがとうございました!」と妻子が唱和し、一連のセレモニーが終わる。

封筒の中身は、お給料である。銀行口座へ振り込まれるお給料を、わざわざ引き出して帰るのだ。この楽しい儀式は、音楽好きの妻が発案した。

音楽を使えば、日常生活も感動的な映画のように演出できる。子供たちは感受性が強いので、特に効果が大きい。おかげで私の子供たちは、「お父さんは偉い」と尊敬してやまない。

私も、毎月このように歓迎されると嬉しい。厳しい世間の荒波など吹き飛ばし、「バリバリ働くぞ!」と、心が燃えたものだ。

子供たちが大きくなった現在では、このセレモニーは行われていない。仕事が忙しくて銀行で引き出す時間が取れないことがあったり、物騒な世の中になってきたので大金を持ち歩くことに不安を感じてきたり・・・というような諸事情で、セレモニーは廃止された。しかし、子供はしっかり私を尊敬するようになったので、十分にセレモニーの使命は果たされたと思う。

子供は、お父さんの背中を見て育つ。その背中を広く大きく見せるには、情熱を持って働くお父さんの姿と、それを讃えるお母さんの知恵が必要なのだ。