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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

古木の圧倒的な貫録と存在感に魅せられた梅まつり

〈 しずかなる 力満ちゆき ばったとぶ 〉 加藤楸邨

この時季2月に、季節外れもはなはだしい句を思い浮かべるのには訳がある。

たしか高校の授業で覚えて以来、誰の句なのかは忘れてしまったのに、句のほうは時々思い出したように口ずさんできた。石田波郷、中村草田男とともに新興俳句の人間探究派に属する加藤楸邨の句と分かったのは、ごく最近のことである。

句だけを覚えていたのは、その解釈が当時、結核を患い病床にあった父親を励ますような内容に受け取れて印象に残ったから。バッタを見ていると、その足は跳ぶのとは逆の方向に、ちょうど弓を射るときのように腰を落として力を引き絞っていく。そうして足に静かに静かに力を蓄え、力が満ちあふれた時に大地を蹴ってパッと跳ぶ。

その足に力を蓄えるところを闘病生活にあてはめる。酒やたばこなど健康に悪い生活習慣や体によくない飲食物を控え、規則正しい生活でしっかり睡眠をとるなど節制と養生に養生を重ねるという忍耐強い努力の中で、ほんの少しずつ健康も取り戻していける、というわけだ。その間に、我慢しきれずに酒やたばこに手を付けたり、健康によくないものを食べたり、暴飲暴食をしたのでは元の木阿弥。病状は一気に前より悪くなってしまう。

昨年の2月は、取りついたパーキンソン病に加え女性特有の器官の障害で歩けなくなっていた家内が、ようやく少しばかり歩けるように回復した頃である。馥郁と花の香が匂う梅の季節を迎え、リハビリも兼ねて家内と京王百草園(東京・日野市)の梅まつりに出掛けた。

小高い丘の上までの約400メートルは結構な急勾配で往生したが、歩けることに気持ちを弾ませた家内は私を置き去る勢いで登っていく。園内は見頃の黄色い蝋梅から紅・白梅など約80種800本の梅花に彩られ、とりわけ何百年もの風雪に年輪を刻んできた古木の圧倒的な貫録と存在感には魅せられて楽しかった。

だが、やはり家内には少し無理があったようで後日、腰痛に伏したのは背骨の腰骨の一つが骨粗鬆症による圧迫骨折していたことが分かった。それからの治療、リハビリは、今なお続いて回復は遅々とした歩み。春を待つ日々は、家内が跳べる日を願い、冒頭の句を口ずさむのである。

〈 梅が香に のつと日の出る 山路かな 〉 芭蕉