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誌上講演会

2009年4月26日、神奈川県・平塚市民センターでの講演より
鈴木博雄 筑波大学名誉教授

日本の再建は家族の再生から(下)

大切なのは一人ひとりが魂の声を聞くこと、私の教育論の根本は「神の声を聞く人を育てる」ということに尽きます

家庭再建の時代

霊性とは神様を知る能力、感じる能力とも言えます。神様の声を自分の心の奥に感じ取ると、本来の自分に目覚めて、こう生きていこうという決意ができます。一人ひとりがそういう決意ができた時こそ、日本は本当の民主主義の国になります。

マスコミや世間を見て、これからはこう動くからこうしようというのは本当の民主主義ではありません。ほとんどの日本人は、世の中の動きをじっと見ていて、乗り遅れないように心配ばかりしています。確かに、乗り遅れるとひどい目に遭うようなこともあります。しかし、今はそれをご破算にして、わが道を行く自信を自分の心の中にしっかり持って生きていかなければなりません。それくらい、今の社会は厳しく、世界的にも大きな危機を迎えているからです。

今までいろいろな危機がありましたが、日本は外からの危機には国が懸命に壁をつくり、国民が受ける影響を最小限にするよう努めてきました。国民のほうからすると、国が何とかしてくれてきたのです。あるいは、地域社会が何とかしてくれ、最後は家族の砦で守られてきました。そうした中で日本人は、自分自身をしっかりさせるよりも、家族や社会、国など自分を取り巻く外側のものに頼ってきたところがあります。

しかし今の時代は、そうした周りの壁が崩れてきています。国は力が弱まり、社会も当てになりません。いまや家庭すら、親が子供を平気で捨てる時代、殺す時代になってきたのです。親が自分の子供を死に追いやるなど、私などには考えられないことです。子供が死ぬのなら私が代わりに死にます、というのが母親の愛でした。ところが今は、自分の幸せのためには子供が死んでも仕方がないという母親が増えてしまったのです。なぜ、いつから、こんな日本になったのでしょうか。

日本には昔から、心の中の正しさ、正義を大切にする伝統がありました。それをもう一度、取り戻し、国民が一つの心になって、出直していかなければどうにもならないのではないかと思います。

戦後復興を支えた日本の家庭

第二次世界大戦が終わる頃までの世界をリードしてきたのはイギリスで、パックス・ブリタニカ(イギリスによる平和)という言葉があったほどです。第二次世界大戦後、とりわけ朝鮮戦争後にぐんぐん力を増してきたのはアメリカで、パックス・アメリカーナと言われます。世界中がアメリカのやり方に従うような時代になったのです。日本は戦後、アメリカに占領されたこともあり、その先頭に立ってきました。

それはある意味で、日本にとって幸運でした。私など、戦争に負けたのだから、奴隷のような生活になっても仕方がないと覚悟していたのですが、日本人はそれほどの目に遭わないできました。日本の社会が大混乱に陥らなかったのは、何より家庭がしっかりしていたからです。

その後、1970年頃までは日本の家庭は崩れず、社会を支えてきました。だからこそ、戦後復興が成功したのです。その中心を担ったのは、戦前に家庭の大事さをしっかり教え込まれた人たちです。

家庭の意味は、日本とアメリカではまるで違います。明治以降、日本の国は天皇を中心に一つの家庭のような国となって、国民が協力し合いながら近代化を進めてきました。アメリカも家庭を大事にする国ですが、個々の家庭が横につながって、民主主義の国を形成しています。家庭が横につながった連合体としてのアメリカ合衆国があるので、国のつくり方が全く違います。

日本は戦後の新憲法で、天皇は国民統合の象徴であると定めました。当時は国民の多くが象徴という言葉に違和感を感じていましたが、考えてみると日本の文化や国民性を世界の中で際立たせているのは、天皇をいただいていることで、それが「象徴」の意味です。そのように、民主主義といっても国の歴史や文化、国民性によって、成立の仕方は異なっています。アメリカは横社会の民主主義であり、日本は縦社会の民主主義で、それは善し悪しの問題ではなく、国の個性の違いです。

日本には年配者を尊敬する伝統文化があります。祖父母から父母、子供、孫という世代を超えた家の歴史が、私たちが生きていく一番の基礎になっています。独立してから200年余というアメリカは、歴史的な成熟度は低いと言えます。

長い歴史を持つヨーロッパで、日本と一番比較されるのはイギリスです。ヨーロッパ大陸からドーバー海峡を経た島国という地理的な位置は、中国大陸と海を隔てて対している日本とよく似ています。明治から大正、昭和にかけて、「東洋のイギリス」になろうと、日本はイギリスを国づくりのモデルにしてきました。

しかし、日本とイギリスとが根本的に異なるのは家庭のあり方です。イギリス人も家庭を大事にする国民です。でも、その家庭のあり方が日本とは異なるのです。日本とイギリスは同じように君主をいただいていますが、その内容は全く異なります。イギリス人にとって国王と国民は契約関係にあります。国民の幸せになる政治をするという王を、国民が選び、契約を結んだのです。それに対して日本の天皇は、最初から国民を慈しむ父母のような存在であり、それが今まで変わることなく続いているのです。私たちはそうした日本の国柄を学び、それに合った家庭や個人を育てていかなければなりません。

魂の呼ぶ声に耳を傾けよう

今の世の中は混沌としています。経済的には世界の先進国の一つですが、その経済が傾いている根本的な原因は、国民一人ひとりが弱くなっていることです。その立ち直りがなければ、経済の再建もできません。

私たちは自分の良心に照らして恥ずかしくない生き方をしているでしょうか。私が国民に呼びかけたいのは、「今こそ魂の呼ぶ声に耳を傾けよう」ということです。自分の心の声に耳を澄ませば、魂の声が聞こえるはずです。それが聞こえないのは、外側のいろいろな声にさえぎられているからです。

愛の家庭を営むことが、神様の愛を知ることになります。そのほかに何か抽象的な神様がいるわけではありません。

本当の意味で子供のため、家族のために献身的に生きている母親の姿は、神様の姿がこの世に現れたものです。神様は家庭の中におられ、その声を聞く力は私たちの心の中にある、という運動を周りの人たちに向けて、広げていく必要があります。「魂の叫びを聞きましょう」という呼びかけを展開していきたいと思います。いかがでしょうか。(拍手)

ただし、呼びかけだけではだめです。具体的に自分が率先して、呼びかけに応える生き方をしていかなければなりません。一番大事なことは、ああしなさい、こうしなさいと言うことではなく、実践する姿を見せ、周りを感化するような人格になることです。

生き方については、立派な先生の哲学的な教えよりも、その先生の発する人格の光がものを言います。一人ひとりが自分の心の奥を見つめて、そんな生き方をしていると、周りの人たちには輝いて見え、何かしら惹かれるものを感じるようになります。その人自身が人格をもって周りを感化し、良い影響を与えていくことが発展してゆく秘訣だと思います。

人類一家族世界の実現を

2000年以降、そういうことを考えていましたところ、文先生の教えの中に、「ワンファミリー・アンダー・ゴッド」というのがあります。この考え方こそが、世界平和の根本になるものです。

平和という言葉はどこでも簡単に使われていますが、大事なことは何を基準にした平和なのかです。インド独立の父ガンジーは「平和は人の心の中から始まる」と言いました。口で平和を唱えてもだめなのであって、一人ひとりが平和を生きる決意をすることから、本当の平和運動は始まるのです。

まず自分自身が自分の魂の叫びに耳を傾けることから始めていきたいと思います。そういう子供を育てるのが皆さんの家庭です。ですから、母親の教育の力に期待するところが非常に大きいのです。

その子供たちの純粋な心を素直に伸ばして、立派な人間に育て上げることが、家庭教育です。ああしてはいけない、こうしなさいと、人間的な知恵であれこれ言うことではありません。私の教育論の根本は、「神の声を聞く人を育てる」ということに尽きます。