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誌上講演会

真の家庭運動推進協議会副会長 太田洪量

家庭問題解決の道

夫婦の愛を、本来あるべき「立体的なもの」に深化させていくことが「愛の十字架」の解決の道です。

根源的な洞察と模索を

家庭問題がますます深刻化しています。いろんな方々が、それぞれの角度から解決せんと努力しておられますが、簡単ではありません。例えば、現政権が進めている子供手当てで、少子化問題が解決されると考えている人は皆無でしょう。麗澤大学河野教授が指摘しておられるように、①ピルの普及による避妊革命 ②セックスを結婚した夫婦間だけに限らないとする性革命 ③女性の解放、男女平等をうたうジェンダー革命等に裏打ちされた価値観の変化こそ、人口減少の根本的原因であると思われます。とするならば、皮相的な解決法では自己満足に終わってしまいます。人間とは、結婚とは、夫婦とは、親子とは、家庭とは等、根源的なところからの洞察と模索が必要なのではないでしょうか。

20数年前に読んで感銘を受けた本に、『家族関係を考える』というのがありました。ユング心理学の権威で文化庁長官までなさった故河合隼雄先生の著です。本のタイトルを忘れていたものですから、国立国会図書館まで訪ね、著者目録で探したのですが見つかりませんでした。ところがある人から題名を教えてもらい、今も講談社現代新書で出版されていることが分かりました。早速買い求めました。感動しました。20数年ぶりに出会った本です。1980年初版の本ですから、10年ひと昔から言えば、三昔古い内容です。しかしユング心理学を日本の家族問題に応用した鋭い分析、深い洞察は、今でも十分参考になります。

「母なるもの」の大切さ

私がパラグアイにいた時知り合った青年の話です。彼の母は10代で妊娠。勿論正式に結婚もしていません。父親は、いずこともなく立ち去ってしまいました。母方の祖母は熱心なカトリック教徒でした。恥ずかしくて、妊娠した娘を自分の村に住まわせないで追い出しただけでなく、妊娠していることを気づかれないようにということで、お腹をきつく縛らせていたそうです。生まれた後は、そのおばあちゃんが引き取って育てたそうです。父も知らず母も知らず、完全な家庭崩壊の中で生まれ育った子です。日本だったらとうに非行化していただろうに、彼はそうではありません。真面目で曲がったことが大嫌いです。いろいろ尋ねてみて、その理由が分かりました。育ててくれた祖母が、小さい時から聖書を読んでくれたり、神様はいつでもどこでも見ていらっしゃるから、嘘をついたり、人をだましたり、悪いことをするんじゃないと教え込まれたというのです。

このたび『家族関係を考える』を読み直してみて、この件に対しもっと深い理解を得ることができました。著者はまず、包含することを主な機能とする「母性原理」と切断する機能にその特性を持っている「父性原理」について説明します。その上で「家族の人間関係はいろいろな絆によって保たれているとは言うものの、人間関係のそもそもの始まりは、母と子の関係である。どんな子供でも、男も女も母親から生まれてくる。生まれるまでは、子供は母親と文字通り一心同体であったのである。この母子一体性を基礎として子供が育ってくるのだから、ここに障害があると、なかなか大変である」「母子一体感の重要さを強調したが、誤解のないようにつけ加えておくべきことは、これは必ずしも実母との間で体験されなくてもいいということである。それは祖母や伯母であっていいし、たとえ血のつながりがなくとも母親代理をつとめてくれる女性があればいいのである。それは『母なるもの』であればいい…」と述べています。

そうか、彼の場合は、おばあさんが「母なるもの」であったのだなと分かりました。勿論おばあさんが伝えたカトリックの教えが父性原理の役割を果たしたということは言うまでもありません。

学力格差から絆格差へ

最近福井県の例がよく言われます。児童の学力テストでも体力テストでも、常に全国1、2位、秋田県や石川県も上位を占めています。逆に大阪、兵庫や愛知は低位に甘んじています。大阪大学志水宏吉教授は、1960年代は都会型が高く地方は低かった、それが逆転しているとして、都会型の学力格差から絆格差と称しています。福井県は持ち家率、三世代家族率そして共働き率も全国一で、不登校率は全国最低です。おばあちゃんが孫の面倒を見てくれるので、母親は安心して働くことができるということです。ここでも祖母が母親の代わりに、「母なるもの」の役目をしていることが分かります。持ち家率が高いということは、代々そこに暮らしている、従って三世代家族の率も高いし、近所づきあいも深いと理解できます。

子供たちからすれば、お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、そして近所の方々とセーフティーネットが二重、三重にできています。子供たちは極めて精神的に良好な状態で勉学や遊びやスポーツに励めるのでしょう。

夫婦の愛は立体的なもの

先だって沖縄に行った時の話です。福井の話をしたのですが、ある識者の方がおっしゃるには、沖縄は三世代家族の率は高いが離婚率、そして犯罪率が高いというのです。離婚、特に子供を連れての出戻りが多いと聞きました。河合隼雄先生は、「愛の十字架」という表現を使っています。親と子の愛情関係は縦、夫婦の愛は横の関係だというわけです。結婚するというのは、ある意味で縦の関係を切って横の関係を築いていくことです。ところが縦の関係が強すぎると、つまり夫と舅、姑との関係が強いと妻は疎外感を覚え、自分も縦の関係である父か母のもとに帰っていくことになります。難しい問題です。

私の考えは、本来夫婦の愛というものは立体的なものである、すなわち横的なものではあるが、その中に縦的な愛も含まれていると考えています。そこまで夫婦の愛を深化させていくことが結婚した者のつとめであるし、「愛の十字架」の解決の道ではないでしょうか。

 -Profile-

■ おおた・ひろかず

昭和19年、東京生まれ。直後に熊本に疎開。昭和38年、京都大学工学部に入学。大学卒業後、日本における青少年教育、家庭再建運動の必要性を強く感じ、昭和50年、全国大学原理研究会会長に就任し全国の大学生の指導と育成に努める。昭和60年、世界平和教授アカデミー(PWPA)事務局長を兼任後、世界平和連合会長等を歴任。平成7年、南米パラグアイ担当として赴任し、基盤拡大のために活躍。平成18年、現地のビクトリア社社長に就任。平成20年6月帰国。今年1月より真の家庭運動推進協議会副会長に就任し全国各地の講演会、セミナー等で活躍中。