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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

昔から野に山に繰り出して、緑の風を楽しみたい季節

ラトビア、リトアニアと合わせてバルト三国と呼ばれる一つ、エストニア(首都タリン)は、北欧スカンジナビア半島の首根っこにロシアと国境を接している。1991年に旧ソ連邦から独立後、ロシアの干渉を排して今では欧州連合(EU)を構成する人口約134万人、面積4.5万平方キロ(日本の約9分の1)の国である。

この国と人について、読売新聞の「編集手帳」(4月1日付)は、ロシアのノーベル賞作家ソルジェニーツィンの『収容所列島』に記されたエストニア評を紹介している。〈長い伝統に根ざした習慣をもつ頑丈な男たちからなる、この控えめで勤勉な小国——〉と。そして「頑丈で、控えめで、勤勉で——多くの人が感じている把瑠都評」だという。

皐月(さつき)5月9日に初日を迎える大相撲夏場所は、エストニア出身の新大関把瑠都(25)=本名カイド・ホーベルソン、尾上部屋=が登場する。横綱白鵬とともに”悪童”横綱朝青龍の抜けた穴を埋め、大相撲の国際化がさらに進む新時代到来を告げる新風を吹かせることを期待したい。頑丈さでは及ばないが「控えめで勤勉」は、日本人の美徳とも重なる。198センチ、188キロの巨体を利した力任せの取り口は、かつて肩ごしにまわしをつかんでの「はりま投げ」の奇手も見せたが、春場所は突っ張りを覚えて相撲の幅を広げ初の技能賞も得た。フランクな笑顔で軽やかに語るテレビの会見の応対も、外国人力士らしさが出て、魅力である。

五節句の一つ、3月(3日)は雛祭りと草餅に象徴される上巳(じょうし)の節句(女子の成長を祝う行事)月なのに対し、大相撲夏場所の5月(5日)は、端午(たんご)の節句であり、二十四節気で夏が始まる立夏。端午は5月初めの午(うま)の日の意味で、男子の成長を祝って、菖蒲(あやめ)や蓬(よもぎ)を軒に挿し、ちまきや柏餅をいただく。また近衛(このえ)府の武官による騎射(うまゆみ)・競馬(くらべうま)行事が行われた。また菖蒲から転じて「尚武」(武を尊ぶこと)の意となり、江戸時代からは武者人形を飾って祝うようになった。

中世の三大随筆の一つとされる清少納言の枕草子に、5月は「節(せち)は、5月にしく月はなし。菖蒲(さうぶ)、蓬(よもぎ)などのかほりあひたる——」(36段)とある。5月は今も昔も、とにかく野に山に繰り出して、美しい緑の風を楽しみたい季節である。