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父の子育て 18

コラムニスト 大森浩一郎

大きな夢を持ち続けよう

どうやら私は、立派な人間に見られるらしい。実際は全然そんなことはないのであるが…。

なぜ自分が「そのように見られている」と感じるのかというと、しばしば「大森さんのお父さんは、立派な方なんでしょうね」と言われるからである。立派なお父さんに育てられたので、私も立派なのだと思ってくださっているのだろう。

しかし私の父は、一般的な意味では立派とは言えない。

父は、子供のころから歌手志望であった。高校を卒業して上京し、何度もオーディションを受けた。しかし合格できず、故郷に戻った。

「普通の生活をしてほしい」という周囲の勧めで、母と見合い結婚し、会社勤めを始めた。ところが、歌手になる夢が忘れられない。酒場に出かけては歌うことに熱心となり、真面目に働かずに会社を解雇された。その後、転々と職を変える日々となった。

結局、家計は母が支えた。そんな家庭で私は育ったので、小さいころは父を嫌っていた。父も、そういう私の気持ちを察していたので、あまり会話をしなかった。

中学生になった私は、小説家を志望するようになった。3年生の進路指導のときに「小説家になるために、修業したい」と言ったが、母や先生に猛反対され、普通に進学した。そのときから私は、父を尊敬するようになった。

なぜ、尊敬するようになったのか? それは、私は夢をあきらめたが、父は「歌手になる」という夢を追い続けていたからだ。自分の子供にも嫌われているのに…。それはすごいことだと感じたのだ。

同時に、そんな父を見捨てずに支え続けた母の偉大さに感動した。「こんな女性と結婚したいなあ」と思った。父を尊敬するようになって、母が理想の女性像となった。

喜寿(77歳)を過ぎた今でも、父は老人会で歌を披露している。もともと歌は上手なので、皆から喜ばれている。生涯、歌い続けてきたわけだから、歌手といってもよい。まさに父は、夢をかなえたのだ。

男は元来、ロマンチストだ。夢を追いかけるお父さんは、時間はかかっても、いつかは子供から尊敬されるようになる。大きな夢を持ち続けよう。