機関誌画像

父の子育て 20

コラムニスト 大森浩一郎

適度な苦労が知恵を育む

今から6年前の出来事である。

当時、我が家では子供に1日1回家事を手伝わせ、10円のお小遣いを与えていた。欲しい物は、そのお小遣いで買わせる方針を貫いた。

ある日、家族でスーパーへ行った。3人の子供たちは、100円玉を握りしめていた。家事を手伝って蓄えた貴重なお小遣いだ。

お目当ては、1個10円のチョコレート。掛け算を習ったばかりの9歳の長女が、「10個買えるよ!」と弟たちに語っていた。

しかし、実際にはレジで105円を請求された。消費税がかかるからだ。それが理解できない長女は、結局9個しか買えずに泣きべそをかいた。

その後、消費税のなぞに迫るため、長女はしばしば妻の買い物について行くようになった。また、私をつかまえては、消費税の計算方法を何度もたずねてきた。むろん、9歳では計算方法を理解することは難しかった。

2カ月後、長女の強い希望で同じ店に行った。外で待っていた私は、店から出てきた子供を見て愕然とした。3人とも100円しかないはずなのに、それぞれ10個のチョコレートを持っていたのだ。店員は、困惑顔で私を見ていた。

「ま、まさか、万引き…」

私は直ちに店員の前まで行き、お金を差し出した。

「いただきましたよ」と店員。

長女が勝ち誇ったように言った。

「お父さん、10円だとショーヒゼイはいらないんだよ!」

消費税は小数点以下を切り捨てる(法律で明確な規定はないが、たいていの店は切り捨てている)。10円の5%は0.5円なので、消費税はかからない。つまり、1個ずつ10回に分けて買ったのだ。店員が困惑していた理由は、3人で合計30回もレジを通ったからだ。

私は、迷惑をかけた店員に何度も頭を下げた。しかし、心の中ではうれしくて仕方がなかった。9歳の子供に、「小数点以下の切り捨て」といった知識はない。お小遣いを大切に使うために苦労した結果、知識を超えた「知恵」が育まれたのだ。むろん、知恵は知恵でも「悪知恵」の部類に入るので、「もう絶対にしないように」と注意をしておいた。しかし、やはりうれしかった。

子供には適度な苦労も必要なのだ、と痛感した出来事であった。