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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

再び、とてつもない日本の科学力の可能性

せっかく回復途上にあったのに、円高に株安のダブルパンチを食らって気息奄々(えんえん)に逆戻りしかかった日本経済。外交と安保・国防が国家と国民生活の安寧を保つ基本柱であることも知らないかのように、官僚の知恵を活用しないでやたら”政治主導”を振りかざした”素人政治”の暴走で、日本の国益が失われている。日米基軸にひびを入れるわ、中国にはあしらわれるわ、雇用拡大の前提である景気は一向にパッとしないわの現状に、つい気持ちも萎え沈みがちになる。

そんな閉塞状況を吹き飛ばしたのが、先月6日のノーベル化学賞の受賞者発表である。北海道大の鈴木章名誉教授(80)と米国パデュー大の根岸英一特別教授(75)のふたりの日本人が受賞した(受賞者は他に米国デラウェア大のリチャード・ヘック名誉教授と計3人)。受賞の理由は、有機化合物の結合で、降圧剤や抗ガン剤などの医薬品や半導体開発など幅広い分野で大きく貢献したパラジウム触媒による「クロスカップリング反応」の開発が高く評価されたもの。それぞれの結合は「根岸カップリング」、「鈴木カップリング」と開発者名が冠に付けられた表記で説明されている。

日本人はオリンピックやワールドカップ・サッカー、ノーベル賞が大好きで、金メダルや決勝トーナメント進出や受賞については、まるで自分が獲得したかのように興奮し喜ぶ。記録や競技の判定、受賞者の選考が、人種や思想・宗教、国境などを超えて公正に正真正銘の世界一を選んでいると信じられるからである。そして、頂点に立った人、選考された人とその人の栄光を得るまでの刻苦勉励の半生を知って励まされ勇気付けられた人々が、上を向いて頑張っていく。難局や苦境下に喘いでいた国家も、そうした人々とともに踏ん張り立ち直っていったこともあるからである。

小欄も、2年前の今月号で、物理学賞に南部陽一郎、小林誠、益川敏英の3氏、化学賞に下村脩氏と一挙4人受賞の快挙について触れた。そして、4年連続受賞が叶わなかった2003年10月に、前年(02年)に化学賞を受賞した田中耕一氏が日本の研究者らに「悲観することは全くありません。(日本の研究者は)創造性を持っていることを自覚し、磨きをかけ、自信を持って進んでいってほしい」と呼びかけたことを紹介した。

銀杏写真

この読みは、前述08年の4氏受賞で鋭い洞察であったことが証明されたが、今回の2氏受賞でも裏付けた。日本の科学分野の底力は、まだまだ可能性を秘めているのである。授賞式は12月10日。しばらくは黄金色に輝く銀杏の葉の下で、ノーベル賞受賞の歓喜の余韻に浸っていたい。