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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

薄褐色の「もじゃもじゃ」の生命力に見るこの国の明るい希望

三が日を過ぎてからとなったが、初詣でに事寄せて鎌倉まで足を運んだ。古都には建長寺や円覚寺など古刹(こさつ)や由緒ある神社が数多くある中で、向かったのは駅から若宮大路を行く鶴岡八幡宮。若水を汲み、今年のよき年であることを祈念したのであるが、目当てはご神木の大銀杏である。

参拝者の大半の思いも同様と見えて、境内を進み本殿に上る石段にかかると、とたんに足が鈍(のろ)くなった人々の渋滞に巻き込まれる。石段を少し上がって左手に見下ろす一角から、しめ縄で囲まれた中にもじゃもじゃと1メートル半ほどに伸びたご神木の若枝の群れに目を奪われるからである。

昨年の3月10日未明に吹き荒れた雪混じりの強風のため、大銀杏は根元から倒れた。高さ約30メートル、幹回り約7メートルの巨木の推定樹齢は千年とされる。今から約800年前の鎌倉時代に、3代将軍・源実朝暗殺の犯人・公暁がこの大木のかげに隠れたとの言い伝えもある。

倒木でついに命脈が尽きたと思われたご神木は、関係者の手で命をつなぎ留める手だてが尽くされて蘇りの希望が出てきたのである。

その方策は三つ。まず、根株本体は幹を高さ4メートルのところで切って、元の場所から7メートル離して植えられた。幹からは若芽が出てきたが、これがうまく育つかどうか。専門家は、3年は様子を見ないと分からないという。

もう一つは、土の中に残った根からも新芽が出て若枝となった。前述の薄褐色の「もじゃもじゃ」がそれであり、この新芽を「ひこばえ」という。1年足らずの間に、ここまで成長する「もじゃもじゃ」の生命力に、この国の明るい未来と大いなる希望を抱いたのである。

三つ目は、挿し木で苗木の増殖が神奈川県自然保護環境保全センター(厚木市)で行われていること。これでご神木のDNAは継承されるという。

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銀杏は東京都の街路樹で一番多く植えられ、都(と文京区)や大阪府、神奈川県の木として親しまれ、その扇状の葉は都や東京大学などのシンボルマークにもなっている。秋の黄葉が注目されがちだが、若葉青葉の頃の緑もハッとさせられる美しさがある。その頃に、いま一度、ご神木の緑葉を確かめに行きたいと思う。

梅の花の香りの二月。——春の立つ あしたのどかに とり鳴きて 野路の松原 霞たなびく(大正天皇御製「立春霞」大正七年)