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誌上講演会

世界平和連合副会長 渡辺芳雄

思想としての共産主義 (上)
——宗教と家庭敵視(文化の攻略)政策の脅威

冷戦が終わっても共産主義思想は、形をかえて巧妙に影響力を強めています。その思想の根本と、政 策として進んでいる危険な現実を、今月から2回にわたって解説します。

政策の背後にある共産主義思想

地域主権、新しい公共、市民自治、男女共同参画社会、選択的夫婦別姓、子供の権利、自治基本条例など、どれかを聞いたことや読んだことはありますか。特別問題視すべきことではない、危険視すべきことではないという印象を持っている人も多いことでしょう。それどころか、どれも必要なことであり閉塞状態にある日本にとっての新しい息吹と受け止めている人もいるかもしれません。

これらの動きの重要な背景として共産主義思想があることを理解する人は少なく、地方分権、新しい地域作り、男女平等と女性の社会進出の必要性、教育は子供の目線に立ってなどの「きれいな」言葉とともに、急速な広がりを見せています。

共産主義問題を扱う前に、そもそも共産主義とは、というところから説明してみます。マルクス思想を共産主義ととらえ、マルクスから始まったと考える人がおりますが、実はマルクス以前に共産主義という考え方はあったのです。格差、支配・被支配、搾取と抑圧のない社会をそのように呼び、私有財産制度が廃止されることを目指したのです。私有財産を認めるから「持てるもの」と「持たざるもの」が生じる。それが格差、階級、搾取・抑圧の根源であると考え、その廃止、すなわち生産手段を共有する社会を共産主義社会と呼んだのです。キリスト教が目指す理想の社会像であるとの考えもありました。

マルクス(1818〜1883年)は、それまでの共産主義に新しくかつ強力な2本の柱を加え、きわめて強固で実践的な思想体系として生み変えたのです。①宗教と家庭の廃止②プロレタリア独裁による私有財産制度の廃止です。この二つは切り離すことはできないのです。

ここでいうプロレタリアとは労働者階級のことです。私有財産を持たない存在であり、支配、搾取をうける無産階級をいうのです。私有財産制度の廃止が、「持てるもの」の自発的行動によってなされるはずはない。「持たざるもの」が廃止させるしかないというのです。つまり、プロレタリアート独裁による私有財産制度の廃止以外、共産主義社会実現の方法はないと結論づけたのです。

家庭の廃止を主張

次に、宗教・家庭の廃止についてです。それはマルクスの思想形成過程、特に家庭・社会環境が背景にあります。マルクスの父母はともにユダヤ人で熱心なユダヤ教の家系を背景にしていました。マルクスの父、ハインリッヒは法律家であり、州(ライン州)の公職としての法律顧問官でした。そしてその立場を守り、家族を守るためにユダヤ教からキリスト教に改宗したのです。当時のプロイセン(現在のドイツ)はキリスト教プロテスタントを国教としていたからです。

ところが元のユダヤ教社会からは裏切り者、キリスト教社会からはもともとはユダヤ教徒であるとの差別と蔑視をうけたのです。少年時代のマルクスは常に孤独、孤立感にさいなまれ、社会に対する批判精神は高まっていきました。人間らしく生きる道、個性を発揮して生きる道を塞いでいるのは宗教とそれを基礎とする家庭であると考えるようになるのです。

人間が人間らしく生きる道を阻害するものを取り除く。これがマルクスの大義です。その大義実現の道は革命の道でした。信頼していた、神の代身・守護神であった父親との結婚問題を巡る決定的決裂と、父親の死により回復不可能となったことを契機に、神への憎悪、復讐の情念に支配されるようになり、先輩のフォイエルバッハが著した『キリスト教の本質』において展開されていた、人間疎外(人間が作り出した存在が逆に人間を拘束すること)として神をとらえる考え方を原点に、徹底的な宗教批判を展開していくのです。あらゆる批判の原点、出発点が宗教批判であると断言するに至りました。そしてその継承基盤が家庭であることから家庭の廃止を訴えたのです。「宗教はアヘン」「ブルジョア的家庭の廃止」そして「万国のプロレタリアートよ団結せよ」と主張し、私有財産制度廃止に向かって行動することを呼びかけたのです。

共産主義実現への二つの道

ところで、共産主義実現の道は戦略戦術を巡って二つにわかれてしまいます。一つは冷戦期までもっとも支配的であった「レーニン主義」です。東欧共産主義ともいわれました。もうひとつは西欧共産主義です。レーニン主義者からは修正主義者、日和見主義者と批判されてきました。

レーニンの考え方を説明します。彼は、労働者に任せておいて革命はできないと考えたのです。彼ら(労働者)の意識レベルでは、資本家による賃上げや国家権力を用いての迫害によって革命意欲を失い頓挫してしまうというのです。ではどうするのか。命がけで革命を遂行する意識の高い前衛組織が必要、すなわち共産党が必要であると主張します。その指導によって労働者階級を団結、行動へとかりたて、「銃口によって政権が生まれる」と強調して暴力革命を訴えました。

すなわち、プロレタリアート独裁とは前衛党・共産党独裁体制となるのです。それが社会主義社会の段階であり、自由の王国・共産主義社会はその後に到来するというわけです。冷戦期における東側陣営はレーニン主義国家群だったのです。

文化の攻略が最重要課題

次に、西欧共産主義(ユーロコミュニズム)について代表的人物を紹介しながら説明します。この考えは、民主主義の土台の上で労働者を中心とする自主管理の仕組みを構築することによって、自由を犠牲にせずにプロレタリアート独裁の目標は達成できるのではないかというものです。

最大の課題は労働者階級の階級意識をいかに高め、日々の生活が革命につながるようにするかでした。レーニン主義は一党独裁、個人独裁であって真の革命ではないというのです。まず女性の革命闘士、「ゲバルト・ローザ」ことローザ・ルクセンブルク(1871〜1919年)がレーニンにかみつきました。彼女は自然発生的革命を強調し、無理矢理革命にまで暴力的に引っ張るレーニンを批判した代表的人物なのです。

さらにロシア革命後、ソ連の実情を批判的にみるマルクス主義者は「なにがロシア人を真の共産革命から遠ざけているのか」を考えました。結論は文化問題、2000年のキリスト教思想と文化であるとみたのです。文化こそ、労働者が正しく階級意識を持つことができない原因であると考えたのです。「文化の攻略」が革命における最重要課題であるとする西洋共産主義の始動です。

次にジュルジュ・ルカーチ(1885〜1971年)です。彼は、与えられた価値観に従うのではなく、労働者自身の主観的意識の確立が必要であると訴え、ハンガリー、クン・ベラ政権の文化教育大臣の時、性教育を積極的に推進し、自由恋愛やセックスの仕方を教えました。それは文化の攻略、既成のキリスト教文化を破壊する手段としてのそれだったのです。 (つづく)