機関誌画像

誌上講演会

世界平和連合副会長 渡辺芳雄

思想としての共産主義 (下)
——宗教と家庭敵視(文化の攻略)政策の脅威

日本の左翼に影響与えた思想

文化の攻略を目指す共産主義を論ずるにおいて最も重要な人物がアントニオ・グラムシ(1891〜1937年)です。ムッソリーニが台頭したイタリアからロシアに亡命し革命後のソ連を見ました。そして幻滅したのです。彼は深く考え、共産革命を妨げる最大要因がキリスト教文化にあると確信します。後に帰国してイタリア共産党の書記長になりましたが、ムッソリーニによって投獄され、46歳の若さで1937年に獄死したのです。

生存中の彼は世界的には「無名」でした。しかし獄中で記したノートがあったのです。「獄中ノート」です。そこに記されていた独創的考えは、後の共産主義運動に大きな影響を与えることとなります。暴力革命を否定し、上からの権力構造を下からの市民社会連帯によって変革し、「国家の死滅」=革命を実現しようとする「構造改革」革命理論です。

グラムシの主張においてもっとも有名なのは「ヘゲモニー論」です。ヘゲモニーを握るとは「知的、倫理的・道徳的指導に対する同意を得ること」です。精神的支配の確立です。プロレタリアートは政治権力を握る(革命)前にヘゲモニーを握らなければならないと繰り返しました。それが「文化の攻略」なのです。「精神的支配は政治的支配の条件」であるというのです。

彼の考えは同僚であるパルミーロ・トリアッティ(1893〜1964年)に受け継がれ、日本の左翼勢力に影響を与えました。1970年代の「革新自治体」構想とは「ヘゲモニー論」が背景にあったのです。そして今、再び「自治基本条例」策定運動として猛威をふるっています。そこにある目標は「文化の攻略」であり、プロレタリアートによる精神的支配から政治的支配への拡大、「国家の死滅」=革命であることを理解しなければなりません。

性欲望を使った文化破壊

ここでもう一つの「文化攻略」運動を紹介します。より物質的、身体的な運動です。といっても暴力革命ではありません。性欲望という「暴力」を用いる文化破壊運動です。この点に注目した人物が前述のルカーチでした。かれは他のマルクス主義者と一緒にドイツ、フランクフルトに「マルクス思想研究所」を立ち上げました。後「社会研究所」と改名し、機関誌「社会研究」を発刊。そこに登場した思想家達は「フランクフルト学派」と呼ばれるようになったのです。1920年代のことです。やがてヒトラーが台頭し、ユダヤ人と共産主義者を迫害しました。亡命先を探さざるを得なくなり、アメリカに移住することとなります。ニューヨークに拠点を構え、「新フランクフルト学派」と名乗ります。

彼らは徹底的に「文化批評」を展開しました。二度とヒトラー、ナチスを生み出してはならない。なにが「彼ら」を生み出したのか、どのような背景が人種差別主義者、独裁者を生み出したのか。総批判、総反省しなければならないと主張したのです。思想的背景はマルクス主義とフロイト思想です。フロイトは神経症の原因は性欲望の抑圧であると主張しました。性欲望の解放こそ人間の解放だというのです。革命の主体勢力は中産階級、主要敵は西洋文化、戦略戦術として暴力は不要であり、長期の忍耐強い作業がなければならないと主張しました。しかし性欲望という「暴力」を利用したのです。スローガンは「文化の支配」です。

批判の対象(人種差別主義者、独裁者を生み出したものの意)はキリスト教、資本主義、権威、家族、家父長制、階級制、さらに価値観としての伝統、道徳、性的節度、忠誠心、愛国心などでした。

試験は暴力の一種、体育の強制も暴力の一種、規制も暴力の一種、無理やりの授業も暴力の一種などと繰り返し、これらの文化的背景が人種差別主義者、独裁者を生みだした要因であると断言したのです。いわゆる「文化決定論」の展開です。ヒトラー、ナチズムを拒否する感情とユダヤ人に対する同情もあって、ユダヤ人である「新フランクフルト学派」の主張が受け入れられていったのです。

アメリカの家庭を攻撃

ここで、特に青年・学生に影響を与えたウィルヘルム・ライヒ(1897〜1957年)とハーバード・マルクーゼ(1898〜1979年)を取り上げます。ライヒが生み出した言葉に「権威主義的パーソナリティ」があります。米国、日本さらに世界に影響を与えることとなりました。「権威」自体は決して悪い意味ではありません。しかし「権威主義的パーソナリティ」となると、ほぼ独裁者、人種差別主義者の意味になるのです。私たちの日常生活で使う状況を考えてみればわかるでしょう。

それでは、独裁的、人種差別主義者=「権威主義的パーソナリティ」はどのようにして形成されるのか。「裕福な一家そろってクリスチャン」「父親が権威主義的」であることがそれだというのです。なんとアメリカの核心を攻撃したのです。米国の屋台骨が攻撃され、傷ついたのです。なすべきことは家族の破壊であり、それは革命的政策としての早期の性教育であると断言したのです。

ハーバート・マルクーゼはライヒの考え方と実践をさらに過激にしました。性欲望の解放を容易にする物質的手段を強調したのです。すなわち、革命の手段は書物・言論よりもセックスとドラッグであるとし、「戦争よりもセックスを」、「武器を捨てて愛し合おう」というスローガンを打ち立てて、世界中の青年・学生に影響を与えたのです。「ピル」と「コンドーム」は文化革命の「ハンマー」と「鎌」と主張しました。その影響は絶大でした。影響を受けた女性は結婚と母性に敵意を抱き、結婚する気、子供を産む気を喪失していったのです。家庭は崩壊していきました。

真の家庭理想で共産主義の克服を

日本は今、文化攻略を目指す共産主義によって覆われています。男女共同参画社会実現は女性の自立が不可欠であるとしています。それは経済的、性的自立であり、後者のためには性に関する正しい知識を早期に教えるべきとして過激な性教育が実施され、望まない妊娠と誤った性情報から子供を守り、エイズの感染を防ぐためと言いつつ、ピルとコンドームの使用が奨励されているのです。

2003年の夏休み前、日本の全中学生に「ラブ・アンド・ボディ」というパンフレットが配布されました。そこには、「いつ・どこで・だれと性的関係を持つのか、子供を産むのか産まないのか」を決めるのは自分であると記され、ピルとコンドームの使用が勧められていたのです。国際機関でも問題視しているピルの副作用については全く触れられていませんでした。国会で問題視され、当時の文部科学大臣が回収を指導したのですが、回収率はごくわずかであったとのことです。

文化の攻略によって革命=「国家の死滅」は可能であると考えるのが西欧共産主義です。源流はマルクスです。彼らは共産党(=レーニン主義)を批判するのです。共産党を批判するのだから共産主義者ではないと思ってしまう人が多いのですが間違っています。彼らは共産主義者なのです。革命方法は二つ、プロレタリアートがヘゲモニーを握る場の確保としての「市民自治」=「自治基本条例」作りと、性欲望の解放による宗教的価値、家庭の価値の破壊です。

結論です。最初に取り上げた地域主権、新しい公共、市民自治、男女共同参画社会、選択的夫婦別姓、子供の権利、自治基本条例づくりなどの諸政策はすべて、文化の攻略をめざす共産主義思想を背景にするものであることをもう一度強調しておきます。米国のレーガン大統領は辞任演説において「未完の作業がある。それは文化を左翼から奪い返すこと…」と述べたのです。共産主義を克服する道はただ一つ、神を中心とする真の家庭理想を提示し実現することなのです。