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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

初夏のあふれる緑に癒され、励まされる月

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♪夏も近づく八十八夜/野にも山にも若葉が茂る。/「あれに見えるは/茶摘ぢやないか。/あかねだすきに菅の笠。」

文部省唱歌「茶摘」の歌詞にある「八十八夜」は、立春(2月4日)から数えて88日目となる5月2日ごろをいう。霜も降りなくなる頃の目安で、陽気がよくなり、唄にあるように緑が美しい一番茶摘みの季節である。

暦には二十四節気や五節句の歴日の他に「雑節」と呼ばれるものがある。生活の中から自然に生まれた民俗習慣や年中行事が昔から記されてきたもので、八十八夜もその一つ。青い空、白い雲、茶色の土の中に映え浮かび上がる茶葉の新緑と茶摘み娘のたすきのあかね色とのとりあわせが、何とも素晴らしき季節の到来を告げている。

4日はみどりの日、五節句の一つ端午の節句の5日は男子の成長を祝い菖蒲(あやめ)や蓬(よもぎ)を軒に挿し、ちまきや柏餅をいただく。ちまきや柏餅も緑の竹や柏の葉で包む。そして、季節が夏に入ることを告げる二十四節気の立夏が6日、万物の生気が充満するという小満(しょうまん)が21日。

温かで過ごしやすい日和となる5月は、”緑の月”と言ってもいいほど緑豊かに染まる。色明るい若葉が、その緑を成長させて色合いも私たちの目を心を安らげ落ちつかせる青葉へと深化させていく。そのもの言わぬ緑葉が、東日本大震災の未曾有の被害にすくみ、様々に傷ついた人々の心を癒し励ましてくれるに違いない。

正岡子規はのどかで、やさしく明るい季節が足元まで来ている山の春を「山笑う」の季語を織り込んで〈故郷やどちらを見ても山笑う〉と詠んだ。松尾芭蕉は密教の霊地で神域の日光・二荒山(ふたらさん)に登って「一山の青葉若葉にふりそそぐ初夏の陽光の荘厳なきらめき」「山全体が光り輝く感動」(山本健吉『俳句鑑賞歳時記』角川文庫)を〈あらたうと青葉若葉の日の光〉と詠嘆した。

よく知られる句に、江戸時代の山口素堂(そどう)の〈目には青葉 山郭公 はつ鰹〉がある。初夏を告げる時鳥(ほととぎす)は春の花、秋の月、冬の雪と並ぶ夏の景物。その景物や当時、縁起魚として一本一両(今日に換算して4万円以上)の値が付いたという初鰹に、青葉を加え素堂は目に入る、耳に聴く、舌が鼓(つづみ)を打つ、緑にあふれる初夏の喜びを詠んだのである。