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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

眼下の木曽川の激流と巨大奇岩が織りなす”寝覚の床”の涼

「平均気温は東日本と西日本で平年より高いが、昨年のような記録的猛暑にはならない見込み」というのが気象庁見立て(7〜9月の3か月予報=6月23日発表)だ。

だが、その前の6月に熱中症で病院に搬送された人は、全国で6887人(昨年の約3倍)に上り、うち15人が搬送中に亡くなった。最高気温35度以上の猛暑日も、今年は7月3日までにすでに計11日(昨年の約3倍)大暑(7月23日)から8月の立秋(8日)、処暑(23日)にかけての真夏も、平年より高いぐらいならいいが、どうやら昨年並の猛暑の気配である。

この暑い暑い8月、夏休みをどう過ごすのか。冷房の効いた涼しい座席空間、移り変わる窓外の風景、それを眺めるのに飽きたら昼寝をするか持参の文庫本を読む、時たまには隣に座った人と話すのも悪くない。それに地方を走る電車は空いている場合が多く、二人向かい合う四人座席を独り占めして座れるときなど、快適この上ない。

まだ40台後半だった十数年前の夏、休みの日には早朝からいそいそと出掛けて快速や普通電車にとび乗った。品川駅から東海道を東に、新宿から中央線で甲府や諏訪へ、仙台へは上野から東北線や今は原発事故で切断中の常磐線でという具合。始発に近い電車で行けば、名古屋や仙台までなら3時間ほどいても日帰りで帰ることができた。当時、入院中だった高齢の母親を週1回ペースで見舞う親孝行もできたのである。

そんなに乗り回ってたら電車賃だけでも大変でしょうと心配には及ばない。ありがたいことに夏の期間だけ限定発売されるJR全国共通「青春18きっぷ」がある。普通電車なら午前零時から24時間、つまり一日乗り放題で5日分セットが11500円だから1日2300円の計算になる。

「青春18きっぷ」のネーミングから学生向けの格安切符と誤解し、まったく縁のないものと思っている人も結構いる。友人のジャーナリストもその一人で、私が教えて「青春18」の虜(とりこ)となり、定年退職すると夏休み、冬休み期間には連絡がとれなくなり困ってしまった。たいていは2セット(10日分)以上を買って急に旅立ち、時々、とんでもない地方から電話してきたもので、何ともうらやましい避暑だった。

私の方は今は、そんな旅の風景にひたるだけ。とりわけ名古屋から松本に行く中央西線・上松駅(長野県)付近で眼下に見た木曽川の激流と巨大奇岩が織りなす”寝覚の床”の、いかにも浦島伝説にふさわしい絶景に清冽な涼しさを思い浮かべるのである。

〈山里はねざめの床のさびしきに たへず音なふ滝枕か那〉 細川幽斎