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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

聖賢をまつり”哲学する散歩道”の空気が清々しい哲学堂公園

東京生活が不惑40年を過ぎ、年にひとつ、二つ、都内で前々から一度は行ってみたいと思うところに足を向けるようになった。昨年2月号で紹介した練馬区立牧野記念庭園(東京・東大泉)もそうだが、中野区立哲学堂公園(東京・松が丘)もその一つである。

新宿から西武新宿線で4つ目の新井薬師駅から歩いて15分ほど、妙正寺川沿いの丘一帯にある哲学堂公園に興味を覚えたのは、その名称に魅かれたからである。ようやく長年の思いを果たしたのは、旧臘(きゅうろう)7日のこと。

行こうという思いに駆られたのは、その前々日の5日から連載が始まった産経新聞の「ソ連崩壊20年」(インタビュー編)で、初代ウクライナ大統領のレオニード・クラフチュク氏が登場していたから。大統領を退いたあと、ウクライナ初の私立大学であるヨーロッパ大学理事長兼総長をされていた氏を、チェルノブイリ被災児支援をするNPO団体の一員として表敬訪問したことがある。

10年ほど前のことだが、このとき見て回ったキャンパスの一隅に、イエス、マホメット(台座だけ)、釈迦、孔子、タゴールらきら星のごとく聖人偉人の銅像が配置された「世界聖人のプラザ」と名付けられた庭園空間があった。ここだけ別天地のような、まさに哲学、思索するのに相応(ふさわ)しい静寂な緑の空間に、時を忘れて黙想したのを思い出したからである。

武蔵野の面影を残す丘とその斜面、川沿いに広がる平地3万4千平方メートル(東京ドームの4分の3)の公園は起伏に富む。沢の流れが小滝を作り、湿地帯や池を作る。騒がしいほどのさえずりで小鳥が群れる林があるかと思うと、クスノキやサクラ、イチョウ、松の大木などで森閑とした雰囲気に包まれる静寂空間も。

六賢台写真

丘の上には孔子、釈迦、ソクラテス、カントを奉(まつ)る四聖堂や聖徳太子、菅原道真、荘子ら東洋の六賢人を祀(まつ)る六賢臺(ろっけんだい)など東洋の古建築物が点在。園内の橋には「望遠橋」や「概念橋」、小庭には「唯心庭」や「倫理庭」、小径(こみち)にも「認識路」、あづま屋は「演繹觀(えんえきかん )」といった具合に哲学用語で名付けられている。

東洋大学の創設者で哲学者の井上円了が明治37(1904)年に創設した公園は桜の名所であるが、他の季節も期待に違(たが)わず、正真正銘の〝哲学する散歩道.の空気の清々しさが味わえて心落ちつくひとときであった。

〈二月はや天に影してねこやなぎ〉 百合山羽公(ゆりやまうこう)