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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

真緑へ緑深まる中で白い花が映える季節に

まずは拙句から失礼を。〈思わざる 病のベット 桜めし〉

馬齢60半ばを重ねて初めての入院である。ベットの上に身を置いて1か月と半ばが過ぎようとしている。診察、検査の末に医者から入院を告げられたのは、桜のシーズンに入る3月下旬。大学病院には3日後に入院する予約手続きが全て完了していた。そのために先月号の本欄は休載し、読者の皆さまをはじめ関係者にはご迷惑ご心配をかけました。今年は4月号で触れた小石川植物園の樹齢130年以上というソメイヨシノを見逃し、緑の季節のゴールデンウィークも病室だった。本稿はいつものワープロではなく、久しぶりに原稿用紙の枡目を1字1字埋めて書いたのである。

病気は結核と糖尿病のダブルパンチだった。これがわかったのは市による肺と胃と大腸がんの検診でのレントゲン検査から。糖尿病の方はさておき、結核とは何とまあ古典的な病に、と思われるかもしれないが、「昔の病気」などとあなどれない。今でも全国で毎年2万5千人ほど、都内で約3千人が発病しているのである。

たいていの人の場合は結核菌が体内に入っても、体の抵抗力が菌を追い出してしまう。ところが抵抗力が弱っていたりすると、菌を追い出せずに「感染」状態となる。それでもインフルエンザのように感染が即発病とはならない。せき、たん、発熱など症状が出て発病するのは感染した10人のうち、1人か2人。私はせきが少々、という程度だったが、その1人か2人になってしまった。

発病すると感染症法で、あの猛威をふるったサーズと同じ2類感染症に分類され、排菌が確認されると保健所から入院勧告を受ける。これは大ごとだと不安にもなるが、日本では医療費などの公的サポート制度が整っている。その恩恵のおかげで私は、ストレス社会で弱まった体の抵抗力を復活させる機会にしたいと、ひたすら養生の日々である。

6月は、前半が柔らかな新緑から落ちつき癒される真緑へと、緑が美しく深まる5月からのよい季節が続く。庭先のジャスミンの小さな花が芳香を放ち、続いて山法師(やまぼうし)、卯の花やクチナシ、道端のドクダミなどの白い花が緑の中で映える。

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梅雨入りする月後半は、花しょうぶ、カラー、睡蓮など水辺の花の出番で、しっとりと変わる季節を彩る。主役のアジサイの七変化もいつもの楽しみのひとつ。なかでも卯の花は初夏を代表する花として、万葉の昔から歌に詠まれ親しまれてきた。「卯の花のにおう...垣根にホトトギス早も来鳴きて…」と夏を歓ぶ唱歌「夏は来ぬ」(佐々木信綱作詞)はよく知られているが、実は卯の花に香りはないというオチも含み笑いを誘う。咲きそろう花の様の余りの美しさに目を奪われて、つい実際の花を忘れた、そんな表現になったのであろう。