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愛の知恵袋 55

家庭問題トータルカウンセラー 松本 雄司

立腰(りつよう)のすすめ

子供の将来が心配で…

あるお母さんから相談がありました。「息子は高校生ですが、遊びでも勉強でも、何をやっても長続きしません。担任の先生からも、『今はこういう生徒が増えていますが、お子さんの場合は特に根気が乏しく、集中力がありません』と言われました。最近は学校にも行かなくなり、このままでは、卒業はおろか、将来、社会で生きていける大人になれるかどうか、心配でしょうがありません。病院に行っても、どこか体が悪いわけでもないし、精神的障害があるわけでもないらしいんです」。

姿勢が悪いと、心もダラリとする

お母さんの話を聞きながら、はじめは何らかの発達障害か、あるいは、思春期特有の心理行動ではないかと思いましたが、じっくり聞いてみると、そうとも言えないようです。そこで、ピンと感じるところがあって、聞いてみました。「お母さん、息子さんは、日頃、姿勢が良いですか、悪いですか?」「エッ…? 姿勢って、体の姿勢ですか?」「そうです。椅子に座ったとき、背筋が伸びていますか?」「う〜ん、…全然ダメですね。背中を丸め、ダラッとしています」「そうですか、分かりました」と言って、私はたった一つのことだけをアドバイスしました。「お子さんに”背筋を伸ばすこと”を、根気よく教えて下さい」。するとお母さんは、「…そんなことで、いいんですか?」と怪訝(けげん)な顔つきです。「そうですね、では、お母さん自身がまず一週間、実践してみて下さい。それからにしましょう」と言って、腰骨の立て方を説明しておきました。

驚くべき”立腰”の効果

一週間後、電話がありました。「先生、これって何なんでしょう、すごいですね。うまく言えませんが、腰をピシッと立てると心がスッと変わるのが、私にもよく分かりました。不思議な感じです」「そうですか、じゃあ、それを息子さんに伝えてあげて下さい。説教がましく言うと反発しますから、お母さんの体験した実感を話してあげ、優しく諭すように教えてあげて下さい。それ以後は、お母さんが一緒に、「我が家の姿勢を正す運動〜!」とでも言いながら、おりにふれて正すようにしてあげて下さい。時々、背筋をスッとなでて正してあげるだけでもよいのです。習慣になるには何年もかかることですから、焦らないでじっくりやってみて下さい」と言っておきました。

それから、3か月ほどたって電話がありました。「先生、息子の姿勢がだんだん良くなってきました。それに応じて、言葉づかいがまともになってきたし、生活態度にメリハリが出てきました。それから、すごいことがあるんですよ! 実は、夕べ、息子の部屋をそっとのぞいたら、なんと教科書を開いていました。思わず、涙が出てしまいました」

その後、息子さんは親がいちいち言わなくても、卒業のことや進路のことを考えるようになり、自分で学校へ行くようになったそうです。

体の中心は心とつながっている

腰骨を立てるということは、昔から座禅の伝統であり、それを近代的な「静坐法(せいざほう)」として確立したのは岡田虎二郎(とらじろう)氏と言われ、さらに「立腰教育」として教育に取り入れ、普及に尽力されたのが哲学者であり教育者である森信三(もりしんぞう)先生でした。”身心相即(しんしんそうそく)”といい、身体の立腰が直ちに心の立腰につながる、つまり、身体の要である腰骨を立てると、一瞬で心がシャンとするということです。

やり方は、腰椎(ようつい)をおへそのほうに突きだすと同時に、お尻を後ろに突き出す。これで五つの腰椎は弓のようにグンと張ります。最初は、長くはできませんが、気がつくたびにグッと張る…ということを心がけて続ければ、少しずつ習慣になります。

私も小さいとき、親や教師からよく「背筋を伸ばしなさい」と言われました。しかし、本当の意味で”立腰”の重要性を知ったのは、ずっと歳を取ってからでした。

剣道などあらゆる武道では「臍下丹田(せいかたんでん)に力を入れ、背筋を正せ」と教え、茶道・華道でも”姿勢”が修行の第一歩、舞踊では”腰”をカナメとします。また、宗教者も座禅や瞑想など、心身統一にはこの姿勢を最善とします。

立腰の姿勢を取ることは、健康に良いだけでなく、邪念を払い、冷静を保ち、頭脳 を明晰にし、正しい意欲を増進させる力があると言われています。

親子で一緒にやって見よう

森信三先生は、「立腰は性根(しょうね)を入れる極秘伝(ごくひでん)である」「腰骨を立てることは、エネルギーの不尽の源泉を貯えることである。この一事をわが子にしつけ得たら、親としてわが子への最大の贈り物といってよい」と言われます。

そして、”いったん決めたらやり抜く人間”、”他人のために尽くす人間”を育てるには、立腰の姿勢を教えるのが一番良いと勧めておられます。

私たちも、まず自分で実感し、そして、子供たちにもそれを教えてあげたいものです。