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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

アカシアの枝いっぱいの緑葉、白い花が生命全開の夏を謳歌

前号に続き人生初の入院の記にお付き合い願いたい。

ほぼ2か月の入院生活から晴れて退院となったのは5月下旬だった。

結核患者の入院病棟は、大病院であればどこにでもあるわけではない。結核は空気感染するために、一般病棟とは別に隔離された病棟で治療する必要があり、相応する設備も必要だからだ。

病室は陰圧室と言って、室内の気圧は外の気圧より少し低くなっていて、外気が入ってきても、室内の空気は外に出ないように制御する設備がなされている。エアコンとは別に、病室などの天井には、空気を吸い上げて殺菌・循環させる装置があって二十四時間稼働だ。昼間は気づかないが、静寂が支配する夜中にふと目を覚ますと、装置が稼働する「ゴーッ」という音がかすかに聞こえてくる。

また結核病棟と病院本館とは廊下で結ばれているが、患者は廊下を通って病院内の売店にも行けない。まさに隔離だが、その廊下は後ろのドアが閉まらないと前のドアが開かない四つの自動ドアによる三つの空間で、空気も遮断されている。病棟では患者はマスクを着用しなくてもいいが、出入りする医師や看護師、見舞客の方はN95マスクの着用が義務づけられている。口と鼻を覆う部分がカラスのくちばしのように突き出ている特別マスクである。

そんなものものしい病棟での生活だったが、1年前に内装を一新したという病室は快適だった。治療は毎日、4種類の抗結核薬を確実に服用すること。それで2週間ほどで結核菌の感染力がなくなるという薬の服用は、最低でも6か月以上続く。そして、2週間ごとに行うタン検査で3回続けて排菌のマイナス判定が出ると退院となる。

なーんだ、そんな簡単なことか! と思うかもしれないが、これがなかなか手ごわい。他の薬の場合とは違い、4種類の抗結核薬はそれぞれ肝機能障害、視覚異常、便秘、痛風、食欲不振などの副作用が結構出るからで、治療を進める一方でそのチェックと対策も欠かせない。私より1か月も前に入院した一人は、抗結核薬で薬物肺炎を起こすことが分かり、排菌なし確認で退院できるはずなのにできないでいて私の退院が先になったほどだ。初入院で2か月は長かったが、私の副作用は軽い発疹ぐらいで終わったからだ。

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毎日、病棟の窓から慰められたのは病院正面ロータリーに植えられた大きなヒマラヤ杉の常緑である。入院当初、その前に立つアカシアの裸木は見る影もなかったが、退院時には目を瞠(みは)った。ヒマラヤ杉を塞ぐように鮮やかな緑葉を枝いっぱいに繁らせ、咲き競う白い花とのハーモニーが生命全開の夏の到来を謳歌していたからだ。

〈夏河(なつかは)を越すうれしさよ手に草履(ざうり)〉蕪村(ぶそん)