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誌上講演会

帝塚山学院大学名誉教授 川上与志夫

自分が変われば家庭が変わる

—「面倒だなあ」「いやだなあ」「そのうち」からの脱却—

「マンネリ」に効く薬

日常生活にひそむ曲者はマンネリです。いい習慣のマンネリならいいのですが、悪い習慣が身につくと、家庭はつぶれます。そこで一つ、非常によく効く薬を処方しましょう。だれにもすぐできる、ごく簡単なオマジナイ。効き目はバツグンです。

それは日常生活で毎日経験する「面倒だなあ」「いやだなあ」「そのうち」を、決して口にしないこと。もし「いやだなあ」と思ったら、その瞬間に気をとり直して、面倒だ、いやだ、と思ったことをすぐに実行すること。しかも、笑顔をうかべて、積極的に…。

これだけです。これだけであなたの人生と家庭は決定的に変わります。すべてが上昇気流に乗ります。笑顔の輪が生まれます。幸運の女神があなたに付き添います。ウソではありません。保証します。やってみてください。

ケーキ屋さんには、いろんな形の、色とりどりのケーキが並んでいますね。「どれにしようかな」と悩んだ末に、選んだひとつ。何が決め手でしたか? おそらく、形と色と素材でしょう。変わった形にきれいな色、それにマロンやフルーツ。そうなんです。どんな物事も、形と味(形式と内容)が揃って一級品になります。文学作品もそうですよね。

家庭の味も形式と礼節に支えられることによって、深みがでます。きれいな色と形のケーキは無言で語りかけてきます。家庭も同じです。事例を紹介しましょう。

事例1 玄関のそろった靴、一輪の花

玄関は家庭の顔。だれだって化粧をするでしょう。玄関の化粧はいとも簡単。上がるときの3秒で靴はそろいます。履物をそろえること。これはしつけの基本です。身を美しくたもつから躾なのです。小さな子供は、親が手本を示し、繰り返し注意すれば、身について習慣になります。やがてこの習慣は、その子にとってかけがえのない貴重な宝になります。

もう一つ、たった一本のユリで玄関は大変身。すっきりした玄関は、料理の盛り付けと同じ。「面倒だ」と思わないで実践すれば、家庭からも料理からも、いい味が出てきます。

化粧したあなたと、乱雑な玄関。見る人は、見ています。

事例2 何気ない日常の挨拶、言葉のやりとり

「行ってまいります」には「行ってらっしゃい」、「ただいま」には「お帰りなさい」。平凡な日常のやりとり。しっかりできていますか? 「行ってまいりまーす」に、「おっ」と応えただけのお父さん。その日娘さんが事故で亡くなり、お父さんは後悔するばかり。

平凡な日常の挨拶を大事にしたいですね。「おはよう」は笑顔で、「さようなら」には祈りをこめて…。幸せはこんなところに潜んでいるのですから。

とくに大切なのは「ごめんね」と「ありがとう」。この二つの言葉が素直にすっと出てくるようなら、あなたの家庭は満点。いい人間関係です。とは言っても、言いにくいときがあるのも確かです。そんな時です。「いやだな」と思う心をウッチャリましょう。「ごめんね」と「ありがとう」は、あなたの魅力に花を添えます。

さらに、前向き志向の言葉に「はい」という気持ちいい返事と、「なるほど」と相手を受け入れる応答があります。明るく元気のいい「はい」があれば、物事はよい方に向かいます。「なるほど」は相手を引き立てます。あなたへの信頼度が増します。相手も自分を受け入れてくれます。まずあなたが「なるほどねえ」と言えばいいのです。子どもの反発も、夫や妻の嫌みも、きっと和らぎます。

事例3 いつもすっきり、ピッカピカの台所

「面倒だ」「いやだ」「あとで」と思う代表格が、台所やトイレの清掃。これほどコワイ存在はありません。手をつけさえすれば、意外にあっさりできてしまうのに…、つい「そのうちに」と思ってしまう。これであなたの人生は負け戦。思い立ったが吉日。今すぐやることです。そうすれば、今日一日が、そして明日が、気持ちよく過ごせます。

「なによ、この冷蔵庫、ゴミ箱みたいじゃない」と、親しい友だちにあけすけに言われる。あるいは、「トイレって、消臭剤と一輪の花で、雰囲気が変わるわよね」などと、やんわり言われたりする。赤面ものですね。怖い、こわい、コワイ!

家庭でとくに気をつけなくてはならないのが、洗面所。水が飛び散っていたり、タオルが乱れていたり。この点、アメリカの家庭はしっかりしています。使った人は、つぎに使う人のために、きれいにしておくのです。見事なものです。わずか10秒の手間ではありませんか。あなたから始めてください。面倒なことはありません。

事例4 歯医者に行くの「いやだなあ!」

「今日は歯医者に行くって言ってたんじゃないの!」

「うーん、でもねえ、いやなんだよな、あのチクってするのが…」

だましだましの2週間。痛みが激しくなって、ようやく重い腰をあげる。

「これじゃあ、抜かなきゃだめですね」

歯医者はあっさりそう言うと、注射して一本引きぬく。

「もっと早く来なければだめですよ。抜かずにすんだのに…」

医者に叱られるだけならいいけれど、怖いのは山の神の祟(たた)り。

「どうしてくれんのよ、こんなに費用がかかって…。今月の家計費、めちゃめちゃじゃない! 小遣いから差っ引くわよ!」

こんちくしょうと思っても、後の祭り。痛みは数倍、費用は10倍。あげくの果ては、入れ歯と相成る。だれが悪いんでもない、自分が「面倒だ」「いやだ」「そのうち」と思った結末。うっかりしていると、こんなことで家庭内紛争が起きることだってあるんです。

だれにも経験があるでしょう。これじつは、私自身のことなんです。歯が一本だけだったからいいものの、「面倒だ」の結末が手遅れの糖尿病だったり、大腸がんだったりしたらどうですか。やっぱり「いやだな」「そのうち」には、打ち勝たねばなりませんね。

事例5 たまには外食を楽しもう

食事は家族だんらんの最たるもの。できるだけ家族そろって食べたいですね。しかもテレビを消して。これも工夫です。協力です。習慣です。

週末には親子で食事を作るのも楽しいではないですか。みんなで意見を出し合って、役割分担する。お母さんの手助けが必要かもしれませんが、お父さんにも子供にも案外できるんです。自分の調理なら何だっておいしいし、お母さんの株も上がります。

一方、生活には変化が必要。月に一度や二度、外食を楽しみたいもの。ファミレスなら結構安いし、最近では牛丼チェーン店などの激安のお店もあります。とくべつな日には、ちょっと贅沢するのもいいでしょう。「出かけるのは面倒だ」とか、「お金がないから」なんて言わないこと。家族の平穏の方が、よっぽど大事ではないですか。

人生のあらゆる局面に応用

さて、いろいろ書いてきましたが、この実践を発展させるとどうなるでしょうか。家庭の風景がきれいにいろどられてきます。家庭内にやさしく明るいメロディーがひびきます。家族が無言の状態でも、家庭にはなごやかで安らいだ空気が流れます。

この生き方は家庭内だけでなく、人生のあらゆる局面に応用されます。集会に出席するのは面倒だ。礼状を書くの、明日でいいかな。しまった! お見舞いが間に合わなかった! こうした失敗体験は、恐らく誰にもあるでしょう。

ちょっとした、ほんのわずかなことです。立派なお城もアリの穴から崩れ、頑丈な堤防も小さなひび割れから崩壊します。家庭内でも同じこと。相手を変えようとしてはいけません。まず、あなたが変わることです。諦めないで、挑戦し続けることです。

すでに実践している人も、どうしようかなと考えている人も、ハッと気づかされた人も、今がチャンス! 毎日、笑顔でつぎのモットーをとなえ、家庭の風景を変えましょう。

「『面倒だ』『いやだ』『そのうち』は、私の辞書にはありません」