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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

3月は草木が柔らかに芽吹き、森羅万象が活動を始める春を実感する月

土筆

2年続きの厳冬の中で待ち遠しかった春が、ようやく実感できる時候となった。暦の上の春の始まり初春、二十四節気の立春は先月4日から。雪が雨に変わり、草木がいっせいに芽吹き始めるという初春後半の雨水が18日からで、弥生(やよい)3月は仲春、すでに春もたけなわということになるが、実際に春を肌で感じられるようになるのはこれからのことである。

今年の仲春前半の啓蟄(けいちつ)は今月5日。啓蟄啓戸「蟄虫(すごもりむし)戸を啓(ひら)く」の日のことで、冬眠していた虫たちが地中から姿を現す頃│と解説されている。

わが家では1年ほど前から、犬猫を飼えるほど広くないが何か生き物とも共生したいと思い、金魚鉢ほどの大きさのプラスチックの箱に3センチほどの砂を敷きつめ、5匹のヤドカリを飼っている。ヤドカリは室温が15度以下になると死ぬというので、それ以下にならないように箱に専用の保温ヒーターをセットした。

それでも、箱内の温度が20度以下となる冬の間は、砂の中にもぐり込んで姿を消してしまう。箱の中は砂があるだけの殺風景となるが、20度を超えるようになった雨水あたりから砂上に出てくると、高さ5センチほどの模造ヤシの木の木登りを始めるなど活発に動きだす。

初めてヤドカリの木登りを見たが、啓蟄よりひと足早い室内の春の訪れを告げてくれているようで、見ていて楽しくなってくるし飽きない。

「暑さ寒さも彼岸まで」と言われる春の彼岸の中日・春分の日は20日。この日を境に、昼の方が夜より長くなり、寒さに縮こまっていた生物も生き生きとし春の讃歌を奏でることだろう。

彼岸は春と秋にあるが、祝日法(第二条)では秋分の日は「祖先をうやまい、なくなった人々をしのぶ」と定めているのに対し、春分の日を「自然をたたえ、生物をいつくしむ」日としている。法の規定ながら、なかなか季節の趣をよくとらえていると感心させられる。

3月は森羅万象が活動を始める春を実感する月。草木が柔らかに芽吹き、山が微笑(ほほえ)む春の訪れを正岡子規は〈故郷やどちらを見ても山笑う〉と喜ぶ。油断できない自然界の厳しい春の一面を川端茅舎(ぼうしゃ)は〈啓蟄を啣(くは)へて雀(すずめ)飛びにけり〉と詠んでいるのである。