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世界の音楽と家庭 [8]

音楽評論家 吉川 鶴生

黒人たちの自由への叫び

ジャズ音楽の20世紀

黒人に西洋楽器を持たせたとき、そのとき、ジャズ音楽が誕生したというようなことが言われますが、当たらずとも遠からず、まさに、従来の西洋音楽の理論と技法にはない非常に自由な音楽演奏を繰り広げる黒人たちの驚くべき姿がそこにありました。

それは白人社会に対する衝撃的な挑戦となったのです。その音楽的価値を次第に白人も認めるようになり、今日では、確固不動の位置をジャズは音楽界において築き上げています。

例えば、初期のジャズ名曲「ベイズン・ストリート・ブルース」※1をルイ・アームストロングが楽しそうに演奏し歌っているのを聴くと、おおよそのジャズの特徴が把握できます。前半と後半では大きく曲調が変化し、音楽自体が自由に踊っているといった感じです。ジャズと即興演奏(アドリブ、インプロヴィゼーション)は非常に密接に結びついており、同じ曲でも、演奏者により、様変わりしたりするものです。個々のアーティストたちの自由な精神がその表現として発露されるのです。

1930年代にはいると、ジャズは白人の手に渡るようにもなり、スウィング・ジャズの代表である「シング・シング・シング」※2は、白人のルイ・プリマが作曲したものです。ベニー・グッドマンのクラリネットを中心とする演奏が、まさにスウィングして、大いに躍動しているのが感じられます。

ジャズ音楽の醍醐味をジャズピアノの中に感じるという人が少なからずいます。オスカー・ピーターソン※3のミスタッチのない正確無比のピアノ演奏は有名ですが、その超絶技巧は多くの人々を唸らせています。

ジャズ音楽の多様性と広がり

ジャズは、ビッグバンドからジャズヴォーカル、ソロ演奏に至るまで多様な形態を持っており、また、時代時代により、スウィング・ジャズ、ビバップ・ジャズ、モダン・ジャズ、クール・ジャズ、フュージョンなど様々で、どれが好みであるかないかなど、ジャズ・ファンでもいろいろです。

ポップスに近いかたちで、大衆の人気を集めるジャズも多く、20世紀末から21世紀にかけてジャズの範疇は、いわゆるクラシックなジャズからポップス的なジャズに至るまで、ひとくくりにできない広がりを見せています。

グローヴァー・ワシントン・ジュニアの「ジャスト・ザ・トゥー・オブ・アス」※4などは、ビルボードの上位に長く居座り続けたフュージョン系列のジャズで、とてもポップな出来上がりになっていると言えるでしょう。

最近では、ノラ・ジョーンズという女性歌手がジャズ・シンガーとして大ブレークして、世界中の音楽ファンを虜にしています。彼女は、インド人の血を持っていますが、その美貌の中に、アジア的情感と黒人のジャズ精神を統融合させているかのようです。ヒット曲「サンライズ」を聴くと、並々ならない歌唱力で情感豊かに歌う彼女の姿が彷彿として感じられます。

日本のジャズ・シーンはどうでしょうか。渡辺貞夫などの活躍を始め、なかなかレベルの高い日本ジャズ界であり、世界的にも高評価を得ています。

カシオペアも高い音楽性で人気を博しています。ナベサダの「カリフォルニア・シャワー」※5などはご機嫌この上なく、気持ちのいいジャズの代名詞です。

フュージョン・バンドとして活躍し、日本の多くのミュージシャンに多大な影響を与え続けたカシオペアですが、彼らの曲は「テイク・ミー」※6などで分かるように、実に、スマートです。

ジャズの心

もしもジャズの心といったものを語るとすれば、それは結局、黒人の魂に言及することになるでしょう。アメリカの奴隷の歴史と、そこから解放されたいとする黒人たちの自由への叫びがあるのではないかという考えがよぎります。

ジャズの自由な音の響きは、元来、黒人たちが持っているDNAであると言ってしまえば、そうかもしれませんが、音楽の中に苦しみを忘れていこうとする黒人の魂の昇華作用が隠されているという考えも否定できないのです。

奴隷生活の中に、どんな家庭生活の姿があり、どんな悲劇があったか、それは黒人のみが知る世界です。もしかしたら、少しでも苦しみから逃れようと、家庭の中で、家族同士、おじいちゃんから孫まで、一緒に歌いながらの日々の生活があったのかもしれません。

文中で紹介されている曲は以下のサイトから聴くことができます。
 (クリックすると、別ウインドウまたはタブで外部サイトが開きます。)

  1. ルイ・アームストロング ベイズン・ストリート・ブルース
    Louis Armstrong - Basin Street Blues
     http://www.youtube.com/watch?v=H8GjJD826vc
  2. ベニー・グッドマン楽団 シング・シング・シング
    Sing Sing Sing - Carnegie Hall 1938
     http://www.youtube.com/watch?v=0NigiwMtWE0
  3. オスカー・ピーターソン
    Oscar Peterson: Caravan (Duke Ellington) 1986
     http://www.youtube.com/watch?v=VWPkMgQMV_k

     ※2013/9/24.機関誌掲載時のリンク先が参照できなくなったため、URLを変更しました。
  4. グローヴァー・ワシントン・ジュニア ジャスト・ザ・トゥー・オブ・アス
    Grover Washington Jr. - Just the Two of Us
     http://www.youtube.com/watch?v=Njwasr1OOuc
  5. 渡辺貞夫 カリフォルニア・シャワー
    Sadao Watanabe - California Shower
     http://www.youtube.com/watch?v=NP4duL0O6CI
  6. カシオペア テイク・ミー
    TAKE ME / CASIOPEA カシオペア
     http://www.youtube.com/watch?v=VsBj0VQQIII