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福祉のこころ(9)

社会福祉士 福島 けんじ

ホームレスの嘆き

東京都心の繁華街に近い公園に、その青年F君(29)は野宿を続けていました。いわゆるホームレスです。声を掛けたのは真夏の昼過ぎ。うつろな目で横たわっていたからです。

聞けば、「病院に行きたいが所持金がない」、「もう少し寝ていれば、そのうち治ると思うから」と言います。しかし、このままでは熱中症になりかねません。区の福祉事務所に案内し、路上生活緊急一時保護所に入ることになりました。

なぜ野宿していたのでしょうか。幼い頃から人とコミュニケーションを取るのが苦手で、高校卒業後、食品会社に就職しましたが、職場の人間関係が嫌になり退職。その後は職を転々とし、最初はアパートで暮らしていましたが、家賃が払えなくなり、簡易旅館へ。その宿泊費も払えず、ネットカフェへ。そして、所持金がなくなり逃げるように公園に来たのです。

これはホームレスにいたる典型的なパターンです。”派遣切り”から路上に至る人にもしばしば見受けられます。F君は「生活がだらしないから、サラ金を重ねて。野宿してから体の調子も悪くて」と言います。一時保護所から更生施設に移り、就職先を探して自立を目指すことになりました。この間、生活保護を受給します。

生活保護には「補足性の原理」というのがあります。その人の利用し得る資産、能力を活用すること、そして、民法にある扶養義務者の扶助を優先しなければなりません。つまり、保護は国民の税金を投入するのですから、資産や家族があれば、それを先に活用してくださいというわけです。

この要件を確認するために、ミーンズ・テスト(資力調査)を行います。最近、年収5千万円のお笑い芸人の母親が生活保護を受けていて、芸人の扶養義務を問われたことがあります。

F君の場合、実家は都内にありました。しかし、F君は家族のことは「関係ないから」と言い張ります。両親は小学生のときに離婚し、母は再婚して妹を出産、義父と母、妹の4人家族ですが、義父との折り合いが悪く、高校を卒業後、一度も家に帰ったことがないというのです。F君の実家に電話しますと、母親は「そうなんですか」と、連れない返事で、「放っておいてください」と言って電話が切れました。義父や妹に遠慮しているようで、F君の孤独感が伝わってきます。F君自身は自分を「だらしない」と自己分析していますが、生い立ちを思わずにはおれません。

その後、F君は清掃の仕事に就き、自立してアパート暮らしを始めました。仕事が長続きし、二度と路上に戻らないことを祈るのみです。

リーマンショック後、F君のような働ける世代の生活保護受給が増えています。あるNPO法人の調査によると、受給相談の3〜4割は20〜30代です。2008年から2010年度に増えた受給世帯26万のうち、約4割は働ける人を含む世帯です。

現在、受給者は214万人(昨年10月)、生活保護費は3兆7千億円を突破しました。高齢者世帯が44%を占め、一人暮らしの高齢者と働ける世代の増加が特徴です。

いずれも、「家族がいない」という点で共通します。F君のように家族の絆が切れてホームレス(家族喪失)になり、加えて、経済的に行き詰まってホームレス(路上生活者)になったのです。

根本的問題は前者にあります。「家族」を取り戻さない限り、生活保護問題は解消されません。家族再生。それは国家的課題と言えるでしょう。