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福祉のこころ(10)

特別養護老人ホーム施設長 前原 仁

生き生きと生きるために

入所者で、毎晩焼酎を飲む人がいました。担当看護師が、「そんなに飲むと体に悪いから、お酒の量を減らしてくれませんか」とお願いしたところ、「俺は、酔っ払って野垂れ死にしたかったんだから、放っておいてくれ」と怒鳴り返されていました。

その後、このスタッフから、「どうしたら酒の量を減らしてあげることができるのか」と聞かれたので、次のように答えました。

「私、あなたに長生きしてほしいから、私のためにお酒を減らしてくれませんか、と心から伝えられたら、考えてくれるかもしれないね」と。

自分を大切に思ってくれている人がいる。そう思っていただくことが本人の気持ちを動かす、基本的な支援ではないかと思うのです。

また、アルツハイマーで入所している元看護師の方は、「私は人に迷惑ばかりかけているから」と言って、毎日ベッドの隅でじっと座ってばかりいました。

スタッフと、この方の施設ケアプランはどうしたらよいかを話し合ったところ、担当の介護員が、掃除をしてもらったら良いのではという意見を出しました。「ジッとしているとADL(日常生活動作)が低下して動けなくなると思うから……」という理由でした。

「掃除をしてもらうことには大賛成だが、目的はそれでいいのかな。それより、掃除をしていただいた後に、職員から”ありがとう”と声をかけることの方が意味があるのでは」と伝えました。

なぜなら、この方は、みんなに迷惑をかけているという思いがあり、自分の行動を抑制してしまっているからです。掃除をした後に自分が掃除をしたことも忘れてしまうようなこの方に、みんなで「ありがとう」と言葉をかけたら、「私、何か知らないけれど、役に立つことをしているんだな」と思わないだろうか、と考えたわけです。

その後、この方は明るさを取り戻し、積極的に部屋から出てくるようになりました。生きる力はどこから出てくるのだろうかと考えた時、「必要とされている自分」を感じた時ではないでしょうか。

高齢者であれ若者であれ、自分が必要とされていることを認識できた時、生きる力と希望が湧いてくるのだと思います。

私は、介護の仕事は、支援する私たち自身にとっても、「必要とされている自分」を実感できる最高の職場だと思っています。

生き生きとして働く職員を見たい。そんな気持ちで、今日も一日を過ごしています。