機関誌画像

世界の音楽と家庭 [11]

音楽評論家 吉川 鶴生

試練の時代でも変わらないのは愛

サン=サーンスとフォーレ

フランス国民音楽協会という組織が1871年に設立され、約20年間、第1期の活発な活動を見せました。サン=サーンス、フォーレ、ドビュッシー、ラヴェルといったフランスの偉大な作曲家たちが加入した組織で、フランスの後期ロマン派あるいはロマン派末期の時代を飾った人々が、そこにいました。

サン=サーンスは非常に天才的な人で、早くから音楽のみならず詩人としても際立っており、多方面における優れた才能を示し、周囲の人々を驚かせていました。多くの作品を残しましたが、よく知られている「動物の謝肉祭」の中の「白鳥」※1はチェロ独奏でしばしば聴かれます。歌劇「サムソンとデリラ」からのバッカナール※2は、颯爽(さっそう)たる曲調で心地よい響きを持っています。

サン=サーンスは母親への愛着が強く、そのためか妻との関係がもう一歩うまくいかなかったと言われています。生まれた子供も2人亡くし、深い悲しみを味わっています。母親が亡くなってからは、気持ちを紛らわせるためか、諸外国へ旅をし、色々な国の音に出会って自らの音楽を深めていきました。

サン=サーンスと親交のあったフォーレは、「レクイエム」※3を作曲し、モーツァルトやヴェルディのものと合わせて、3大レクイエムの称賛を得ていますが、フォーレ自身が語っているように、この曲は死者のためのミサ曲(鎮魂歌)というよりも、死者の霊が神のもとへ旅立ち、そこで永遠の安らぎを得るという、言わば、頌栄(しょうえい)歌の意味合いのほうが強く、従って、悲しい響き、涙を流して死者の魂を鎮めるという曲調がそれほど感じられません。モーツァルトのものとは異なる音調を奏でています。

サン=サーンスは家庭で面白くないことがあると、フォーレの家に逃げ込んでそこをまるで我が家のようにして過ごすことがあったという伝聞がありますが、それほど、2人は気心の知れた仲だったということでしょう。

ドビュッシーとラヴェル

写真
Claude Achille Debussy
(1862-1918)

フランスの印象派音楽というジャンルで語られることの多いドビュッシーは、ベルガマスク組曲の中にある「月の光」※4などで知られるように、確かにその音楽性は印象派の絵画に近いものがあると言えるかもしれません。ドビュッシーのピアノ曲の中に「アラベスク」※5がありますが、初期作品群の中でも、美しい響きを奏でており、この曲のファンも多くいます。

ドビュッシーは決して恵まれた環境で育ったわけではありませんが、多くの僥倖(ぎょうこう)に助けられ、フランス音楽界を代表する大家に成長していきます。

気難しい性格のためか、家庭生活ではトラブル続きで、女性関係も複雑なところがありました。それでも管弦楽曲「海」※6などは当初、賛否が分かれたものの、20世紀音楽の金字塔となりました。

フランスの紙幣に彼の画像が印刷されているのを見ても、フランス人のみならず、世界中の人々がドビュッシー音楽に魅せられているのが分かります。

ラヴェルという作曲家が「ボレロ」※7をバレエ音楽として世に出したのは1928年のことでした。ほとんど誰もが、耳にしたことのある「しつこい」繰り返しの続く曲ですが、世界中の人気をさらった超人気曲です。催眠術か何かにかけられてしまうような催眠的反復がこの「ボレロ」の一大特徴です。

因(ちな)みに、ラヴェルは生涯を独身で通し、心から敬愛するバスク人(スペイン)の母親が死んだ後は、非常に精神的な動揺を来(きた)し、不安定な状況の中で暮らしました。そうした中で奇跡的名曲として晩年、発表したのが「ボレロ」でありました。後半部に至るほど大音量で迫る「ボレロ」はスペイン的熱情なのでしょうか。

愛の挨拶

イギリスのエルガーは「威風堂々」※8の名曲で知られていますが、見落とせないのは、婚約者に書いた「愛の挨拶」※9です。自身カトリック信者であったエルガーが宗派を超えて、プロテスタントのアリスと結婚に踏み切ることは容易なことではありませんでした。しかし、この曲の所為(せい)か、非常な効果を生んだのか知りませんが、とにかく2人は結ばれました。優美な曲想であり、アリスは間違いなくうっとりとしたことでしょう。

19世紀末から20世紀へと大きく時代が変わる転換期の中の作曲家たちの姿が個人的にも社会的にも試練の多いものであったことは頷(うなず)けますが、変わらないのは、男女の間の愛であるとエルガーは「愛の挨拶」の中で強調しているようです。

文中で紹介されている曲は以下のサイトから聴くことができます。
 (クリックすると、別ウインドウまたはタブで外部サイトが開きます。)

  1. シャルル・カミーユ・サン=サーンス 組曲『動物の謝肉祭』 第13曲「白鳥」
    Yo-Yo Ma The Swan Saint-Saens
     http://www.youtube.com/watch?v=zNbXuFBjncw
  2. サン=サーンス 歌劇『サムソンとデリラ』第3幕第2場 バレエ音楽「バッカナール」
    Saint-Saens Bacchanale [From 'Samson et Dalila']
     http://www.youtube.com/watch?v=vBPON_JhG-Q
  3. ガブリエル・ユルバン・フォーレ レクイエム ニ短調作品48
    Gabriel Faure' - Requiem
     http://www.youtube.com/watch?v=NaIq8M47TvY
  4. クロード・アシル・ドビュッシー ベルガマスク組曲 第3曲「月の光」 変ニ長調
    Clair de Lune
     http://www.youtube.com/watch?v=-LXl4y6D-QI
  5. クロード・ドビュッシー 2つのアラベスク 第1番 ホ長調
    Debussy: Arabesque I (1888)
     http://www.youtube.com/watch?v=28Qi4jLtigc
  6. クロード・ドビュッシー 交響詩『海』
    Claude Debussy - La Mer
     http://www.youtube.com/watch?v=FOCucJw7iT8
  7. ジョゼフ=モーリス・ラヴェル バレエ音楽『ボレロ』
    Maurice Ravel-Bolero [FULL]
     http://www.youtube.com/watch?v=LWcpw3GAAms
  8. サー・エドワード・ウィリアム・エルガー 行進曲『威風堂々』 作品39 第1番
    Sir Edward Elgar - Pomp and Circumstance March No.1
     http://www.youtube.com/watch?v=moL4MkJ-aLk
  9. エドワード・エルガー 『愛の挨拶』 作品12
    Andre Rieu 〜 Salut D'Amour
     http://www.youtube.com/watch?v=6J2qvhIdO0s