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世界の音楽と家庭 [12]

音楽評論家 吉川 鶴生

音楽を通じて平和を祈りたい

アフリカ音楽の大御所ユッスー・ンドゥールとミリアム・マケバ

ユッスー・ンドゥール※1というミュージシャンがセネガルにいます。彼はおそらく現代アフリカ音楽を代表する大御所と言ってよいでしょう。土着のあらゆる音楽要素と欧米ポップスの音楽要素を巧みに混成させながら、彼自身の音楽文法を作り上げ、多彩な音楽を世界に披瀝(ひれき)し、欧米などで高い評価を得ています。社会性の強いメッセージを音楽で伝えることもあり、そのため、彼のメッセージを用心する政治階層もありますが、アメリカのスティービー・ワンダーなどとはとても深い関係を築いています。

もう一人、女性でアフリカのママと呼ばれるミリアム・マケバがいます。南アフリカの出身で、アパルトヘイト(南アの人種差別)に抗議したことから国を追われ、アメリカその他の国で生涯を送り、最後には許されて帰国しています。「パタパタ」※2というよく知られた曲でご存じの人もあると思いますが、アフリカの伝統音楽とジャズとのミックスを試みて多くの曲※3を世に出しました。

大御所たちの音楽を、いかにもアフリカ的で体が自然に動き出すような楽しい音楽であると見る人もいるでしょうが、感じ方によっては、その楽しげな音楽の背後に何だか悲しげな響きがあることを敏感に感じ取ってしまう人もあることでしょう。アフリカ大陸がたどった植民地時代の暗い影が歌の中に深く染み込んでいる側面がないとは言えません。歌を歌い、踊りを踊って、塞(ふさ)いだ気持ちを外へ発散させなければ、生きることができないような状況が、アフリカの大地をいつも覆っていた、そんな歴史があったことを思いながらアフリカ音楽を聴くのは、アフリカの人々に申しわけない気持ちがしないでもないですが、つい、そういうふうに聴いてしまいます。実際、ンドゥールもマケバもプロテスト精神が強く、自分たちの人生の不条理に対して、歌で応えています。

イスラエルとアラブは異母兄弟

中東の音楽と言えば、アラブ諸国とイスラエルの対立を思い出す人が少なくないと思いますが、二つの対立はその根っこにユダヤ教とイスラム教の信仰対立があります。

それでは、音楽上の違いはどの位あるのでしょうか。例えば、レバノンの人気歌手ファイルーズの曲※4と、イスラエルの人気歌手アミール・ベナヨウンの曲※5が放つ独特の節回しとうねるような歌い方は非常に似ています。中東地域が一つの音楽的伝統を共有しているようにも思われます。

考えてみれば、4千年前のアブラハムという一人の人物の本妻サラからイスラエルが出たのであり、妾のハガルからアラブ民族が出たのですから、この二つの民族は異母兄弟で非常に近いということです。父親が同じですので、それほど離れた遺伝子ではありません。音楽的に似ていたとしても不思議ではありません。ちょうど、日本の演歌と韓国の演歌が非常によく似た感じがするのと同様であるのかもしれません。イスラエルとアラブの人々が一緒に歌を歌えば、同じような節回しで、親近感を覚え、案外、早く平和が来るのかもしれません。

いずれにせよ、音楽には国境はありませんから、敵対するそれぞれの国が相手の国の音楽を心から喜んで歌うようになれば、戦争など馬鹿らしくなるでしょう。戦わないで済む道を、人類は懸命に捜し出さなければなりません。

音楽を通して家庭と世界に平和を

インドはヒンズー教徒がほとんどであり、イスラム教ともユダヤ教とも違う多神教的世界ですが、その音楽は深い伝統に守られています。シタールという楽器は、言わば、インド版ギターとでも言うべきものですが、非常に複雑微妙な音を自在に奏でてくれます。シタールが奏する楽曲※6を聴いていると、まさにインドがそこに彷彿(ほうふつ)としてあるといった感じです。インド的多様性という言葉がしばしば語られるように、一切を飲み込んで流れていくガンジス川の流れのような底の見えない音楽性が不思議とインド音楽の中に感じとれるのは、シタールという楽器が持つ摩訶(まか)不思議な特性から出てくるものかもしれません。

アフリカから中東、インドと音楽で歩き渡って来ると、音楽も様々であると感じつつ、それでも大いなる共通性、すなわち、人類はひたすら音楽を愛し、さまざまな歌を歌い、さまざまな楽器を奏でてきたという事実は変わらないことを知って、今更ながら、音楽の力を思い知らされます。音楽を通して家庭と世界に平和があるように祈りたいと思うのです。

文中で紹介されている曲は以下のサイトから聴くことができます。
 (クリックすると、別ウインドウまたはタブで外部サイトが開きます。)

  1. ユッスー・ンドゥール Thiapathioly
    Youssou Ndour - Thiapathioly.wmv
     http://www.youtube.com/watch?v=7gT7w99H6ns
  2. ミリアム・マケバ Pata Pata
    Pata Pata by Miriam Makeba
     http://www.youtube.com/watch?v=e-VrfadKbco
  3. ミリアム・マケバ African Sunset
    Miriam Makeba - African Sunset
     http://www.youtube.com/watch?v=P2gMLCLSZ9w
  4. ファイルーズ Shady Arabic song
    Fairouz - Shady Arabic song
     http://www.youtube.com/watch?v=HGIzNl4cOvo
  5. アミール・ベナヨウン
    Amir Benayoun
     http://www.youtube.com/watch?v=Kc8Y7Tz3Wsc
  6. アヌーシュカ・シャンカール Your Eyes (Sitar Solo)
    Anoushka Shankar - Your Eyes (Sitar Solo)
     http://www.youtube.com/watch?v=O4RZaszNhB0