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世界の音楽と家庭 [13]

音楽評論家 吉川 鶴生

ユダヤ系音楽と家族の結束力

活躍するユダヤ系音楽家たち

作曲や演奏で活躍するユダヤ系の音楽家は少なくありません。音楽とユダヤ人の相性がいいのかどうか分かりませんが、絵画の世界にユダヤ系画家がそう多くないのとは対照的です。メンデルスゾーンをはじめ、マーラーやシェーンベルク、ミヨー、ガーシュイン、クライスラー、スティーヴ・ライヒ、コープランド、シュニトケなどの作曲家、ブルーノ・ワルターやレナード・バーンスタインといった有名な指揮者、映画音楽などで活躍のマックス・スタイナーやヴィクター・ヤング、ジャズピアニストのメル・パウエルといった顔ぶれを思い出すだけでもユダヤ人は音楽的なのかとつい思ってしまうほどです。

特に20世紀になると、ナチスドイツの動きなどで住みにくくなったヨーロッパを離れ、アメリカで活躍するようになったユダヤ人が多いのですが、現代アメリカ音楽はクラシックに限らず、ポップスの世界に至るまでユダヤ系音楽家に支えられてきたと言っても言い過ぎではありません。バーブラ・ストライサンドやサイモンとガーファンクルの音楽に聴き入った人も少なくないでしょう。

独創性と保守性そして大衆性

シェーンベルクなどの音楽人生のあり方を見ると、半音階の多用から調性の放棄、ついには無調の音楽へと進んで、その独創性の探求が「12音音楽」の提唱に至った経緯を見ることができます。それでいて、カトリックからプロテスタントへ、そしてユダヤ教へと回帰していった、いわゆる、「先祖返り」への彼の宗教精神は極めて保守的でもあります。技術の革新性と精神の保守性をどう説明するかは難しいところですが、ガーシュインの音楽もクラシック音楽の中に大胆にジャズを取りいれていった斬新なところが見られます。スティーヴ・ライヒの最小限に抑えた音型の反復という「ミニマル・ミュージック」の先駆的貢献もまた、ユダヤ的独創性なのでしょうか。

久石譲はミニマル・ミュージックの音楽作法を「風の谷のナウシカ」の映画音楽に取り組んで、うまくいったと述べています。マーラーの「交響曲第5番」※1シェーンベルクの「浄夜」※2クライスラーの「愛の喜び」※3などは、よく耳に入ってくる音楽ですが、映画音楽の巨匠ヴィクター・ヤングの「エデンの東」※4などはまさに万民の音楽となっています。ジャズとクラシックの垣根を壊したような独創的な名曲「ラプソディ・イン・ブルー」※5を作曲したガーシュインの腕前にも脱帽ですが、一方、華麗な歌姫バーブラ・ストライサンドの「メモリー」※6を傾聴しながら、うっとりする人々にも大いにうなずけるものがあります。

家庭を重んじるユダヤ的伝統

歴史的に受難を背負ったユダヤ民族は、世界中に四散しながらも民族としての生き残りを果たしてきました。もちろん、彼らの民族宗教であるユダヤ教がその結束力の源泉であったことは否定できませんが、基本的に家族の結束力が強いこと、また教育に非常に熱心であることが優秀な民族を作り上げ、民族の生き残りを可能にしたと言えるかもしれません。

1948年に再建国された現在のイスラエルにおいては「ユダヤ人の母を持つ者」がユダヤ人であるとされていますが、他方、欧州などでは「ユダヤ人の父を持つ者」もユダヤ人扱いにされています。ユダヤ的伝統に従えば、母親がユダヤ人であることの方が非常に重んじられたわけで、その理由の一つに、母親がユダヤの伝統に従い、ユダヤの教えを子供たちに教え込む役割を大きく担っていたからかもしれません。一般的に言って、父親よりも母親の影響を強く受けやすい親子関係から見ると、母と子の絆こそ家庭を守り、家庭を支える原動力であるという鉄則があることをユダヤ人たちは証明しているということができるでしょう。

母が子供を殺す、母が子供の養育をきちんと果たさないなどの悲しいニュースが多く聞かれるようになったわが日本の行く末は、大丈夫でしょうか? そんなことが気になりますが、いずれにせよ、ユダヤ人から学ぶことがあるとすれば、いかなる迫害や苦難にも負けず、生き残ることのできる鍵は、家族の結束力と教育の重要性にあると言えるでしょう。音楽は、元来、神を称え、神に対する感謝と讃美を中心として生まれたものであるという見方がありますが、宗教的民族であるユダヤ人は、その音楽的才能を通して、神と人類に奉仕しているのかもしれません。

文中で紹介されている曲は以下のサイトから聴くことができます。
 (クリックすると、別ウインドウまたはタブで外部サイトが開きます。)

  1. グスタフ・マーラー 交響曲第5番嬰ハ短調 第4楽章
    マーラー アダージェット 交響曲 第5番から
     http://www.youtube.com/watch?v=ov1xwCQULSY

     ※全曲(1時間15分)は下記をお聴き下さい。
     Mahler: Symphony No.5 in C sharp minor - Bernstein / Wiener Philharmoniker
     http://www.youtube.com/watch?v=QpitDloV-GA
  2. アルノルト・シェーンベルク 弦楽六重奏曲 作品4 『浄夜』
    シェーンベルク 《 浄夜 》 より
     http://www.youtube.com/watch?v=Z-ixHpwoRH0
  3. フリッツ・クライスラー 愛の喜び ハ長調
    愛の喜び(クライスラー)/イツァーク・パールマン
     http://www.youtube.com/watch?v=TFOFifqMQqc
  4. ヴィクター・ヤング エデンの東
    エデンの東 :ビクター・ヤング / East of Eden :Victor Young
     http://www.youtube.com/watch?v=3rHpcOrbZXQ
  5. ジョージ・ガーシュウィン ラプソディ・イン・ブルー
    ガーシュイン 《ラプソディ・イン・ブルー》
     http://www.youtube.com/watch?v=J9YROOijLUw
  6. バーブラ・ストライサンド 「メモリー」
    Memory - Barbra Streisand
     http://www.youtube.com/watch?v=GVwJNg4Wgq4