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福祉のこころ(14)

中島やよい

「音楽療法」を願って

東京の下町、江戸切子や花火、風鈴で知られる江戸川区にある老人介護施設から、歌が流れてきます。春は桜並木に囲まれ、周囲には小川がさらさらと流れ、秋には銀杏の色づいた葉が辺りの公園を染めます。

ガラス張りの解放感ある施設で、私はお年寄りに音楽療法的な意味で歌を歌い、ピアノを弾き、お年寄りが自ら歌うようにお話ししながら仕事をしています。早15年近くになり、白いグランドピアノが私の仕事の友です。

施設の周辺に長年住んでいた人達が入所してこられます。70歳前後から百歳近い方々まで、約200人。そのほか、40人が日中のデイ・サービスを受ける方々です。

私は音大の声楽科を専攻しており、私の「音楽療法」は週2回50名程が集い、館内で楽しみます。ほかにもボランティアでイベントが行われ、中高生が職場体験に来たり、グループでコーラスを提供しに来たり、介護の専門学校生が研修実践にきたりします。

私が担当する「音楽療法」は、この施設の専属プログラムとして行われています。四季折々の歌、季節を感じるような曲を歌っています。多くのジャンルから心が癒されるテーマの歌を選び、語りを交え、反応をみながら楽しめる雰囲気づくりに心がけています。

人は十人十色、人生も様々ですから、好きな曲も、受けとめ方も様々です。戦争の歌、青春の歌を懐かしがって反応する方もいれば、最近の演歌や伝統的な民謡の好きな方もいます。

こうしてみると、音楽はこれまで皆さんの心の支えになってきたことがよく分かります。皆さんが歌い終わって自分の部屋に戻る時、笑顔で行く姿を見るにつけ、本当に嬉しく思う日々です。

千葉の介護施設にも行っていますが、所変われば、人も雰囲気も変わります。この施設でも週一度、100名近くのお年寄りが参加されます。1時間の「音楽レクリエーション」といった感じです。歌うことができない方も多い中、マイクをもって自分で歌う人がいたり、何とか聞こえる耳で聞いて楽しんでいるような人もいます。

いつもこの時間の最後には、皆で大きな声で歌っています。時として感動的ですらあります。「幸せなら手をたたこう、…肩たたこう、…足鳴らそう」と手足を動かしながら、元気いっぱい歌っている姿は、子供のようでもあり、「夕焼け こやけ」のメロディーに合わせてそれぞれの部屋に帰っていきます。

音楽や歌は、情感が動くことにより脳の活性化にもつながり、歌詞を通して知的にも過去の記憶をよびさましたりします。人生の様々な局面を思い出させたり、感情を誘発させたりします。また、高齢になる程声が出なくなってきますが、口を開けて自発的に言葉をだそうとする意志や仕草が、何らかの効果をもたらすのだろうと思います。楽しい歌では、手を動かそうとし、鈴やカスタネットのような楽器の音も、感情表現を助けます。こうしたことが、人間として生きているという実感を呼び覚ますようになるのではないでしょうか。

こうした音楽を通してのコミュニケーションと、人生の先輩の方々への「音楽療法」とが、少なからず何らかの慰労になっているのではないかと思い、私自身の喜びと感じながら携わっています。