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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

バラの季節にもう一度、雑踏を離れてひとり静かに歩いてみたい気分になった旧古河庭園

前々から一度は訪れてみたかった所のひとつに、都立文化財9庭園の一つで国の名勝・旧古河庭園(東京・西ケ原=JR駒込駅から徒歩12分)があった。思いがかなったのは2月下旬の春を感じさせる日和の晴れた日。2週連続して東京にも降った週末の大雪が街中ではほぼ消えかかったころである。

バラ

小高い丘の上に建つ赤みを帯びた黒い石(新小松石)造りの洋館(大谷美術館)は、英国貴族の邸宅を模した古典形式のもので由緒ある歴史を漂わせる。その前面下には前庭が広がり、左右対称の幾何学的に構成した花壇などの洋風庭園がある。まだ先のことになるが、バラの季節の5月と10月には、赤、白、黄色など原色が美しい大きなバラの花目当てにどっと繰り出す人の群れ。押すな押すなの大賑わいとなり、バラを見に来たのか人を見に来たのか分からないほどになるという。

そんなシーズンの到来を告げる、洋館をバックにバラの大輪が画面から飛び出すようにアップで写った写真を掲載した新聞などのガイド記事やポスターなどで、ここを知っている人も少なくないだろう。旧古河庭園=バラのイメージは強烈である。

ところが今回、そのイメージは変わったのである。シーズンオフの庭園巡りは、ここでの初企画「庭師の親方と庭さんぽ『親方と歩こう!』」に参加したから。庭園は親方を含め四人の庭師が世話しているが、その親方のガイドで洋館の丘から階段を下りていく。

まずテラス式の洋風バラ庭園があり、そのずっと下方に丘を囲むように高低ある低地が続き、自然そのままのような佇(たたず)まいで美しい日本庭園が広がっている。もう一つ、洋風庭園と日本庭園の間の斜面も、こんもりしたツツジの植え込みが施された庭園で、東洋と西洋の二つの庭園をつないでいる。

洋風と和風、その中間と3種の庭園を一度に見られるのがここである。親方は、この3つの庭園を「庭園は書体に例えると、上から人工的な洋風庭園が楷書、次のツツジ庭園が行書、一番下の和風庭園が草書として味わえるようになっています」と職人らしい絶妙な説明。加えて、ここを作庭した京都の名人庭師で知られる植治(小川治兵衛)は、大滝、心字池、枯滝(かれたき)、渓谷などを最も美しく眺められるポイント(視点)をさりげなく石で示しているという。「見晴らし場には、大きくて平たい石が埋めてあります。その上に立っての眺めが一番で、その石のことを役石と呼んでいます」とも。

何だかここの奥義を究めたような満足感で得した気分に浸ったひと時。バラの季節にもう一度、雑踏を離れてひとり静かに、ここの庭を歩いてみたいと思ったのである。