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春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

緑葉に命の勢いが輝く一方で、常盤木落ち葉の新旧交代劇が見られる初夏

——心よき青葉の風や旅姿  正岡子規

野山を蔽(おお)ういろいろな緑が眼を癒し、爽やかな風に心を躍らせる季節となった。5月が1年で最も過ごしやすいのはほどよい気温と湿度の月だからだが、初夏に入り新緑から青葉に移る緑の最も美しくなる季節だからでも。

ついこの間まで公園や歩道、川端の桜やハナミズキの花に心を奪われたのが、同じ桜やハナミズキに広がる若葉青葉の輝き、緑の美しさにもハッとすることがある。モミジやイチョウの新緑葉にも、秋に燃える紅(黄)葉に決してヒケをとらない、涼しげな美しい緑を見つけたことも。ちょうどこの時期に、平家落人伝説に彩られる湯西川温泉(栃木・奥日光)でいただいた、桶の冷水に浮かぶ手作り冷奴に添えたモミジ若葉の緑の美しさを今でも思い出すのである。

「みどり」はもとは草木の「新芽」を意味し、そこから色の名になったと解説される(「日本語源大辞典」)。草木の新芽の色に、日本人は微妙な緑の違いを見分け、何種類もの緑を名付けた。若草、若竹、萌黄(もえぎ)、裏葉柳、松葉、青緑、常盤(ときわ)、木賊(とくさ)、千歳緑色などなど。初夏にそれぞれ個性ある緑に落ち着く緑葉の微妙に違う濃淡、豊かな緑のバリエーションの競演は、野山に繰り出す人々の目を楽しませ、新緑のオーラを満喫させ、心身ともに癒してくれよう。

5月の緑について、もう一つ。池波正太郎の時代小説『編笠十兵衛』(下・新潮文庫)に、こんな件(くだり)がある。「杉、松、椎(しい)、樟(くすのき)などの常盤木(ときわぎ)は、新葉の生いはじめるとともに、古い葉を落とす。/その、松と杉の落ち葉が散りしいた土の上へ、筵(むしろ)をのべ、月森十兵衛の妻女・静江が昼餉(ひるげ)の仕度にかかっている」

楠

草木の緑に目を奪われる初夏だが、つややかな若葉が輝く楠(くす)や椎、樫などの木々は5月の風に吹かれて、その葉を落とす。針葉樹の松や杉も落葉し、実は初夏は晩秋と並ぶ落ち葉のシーズンなのである。

今年の若葉にポストを譲って古い葉がフェードアウトしていく、新旧交代劇を演じている落ち葉を「常盤木落ち葉」という。人間の世界の新旧交代は何かとトラブルを生んだりするが、自然のそれはスムーズに行われる。もっとも秋の枯れ葉と違って初夏の半生の落ち葉の方は、緑のまま落ち重くて処理もやっかいだと嫌われているのだが。

緑葉に命の勢いが輝く一方で、常盤木落ち葉の新旧交代劇が見られる初夏。二十四節気は5日が立夏、21日が「草木が茂って天地に満ち始める」という小満である。