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世界の音楽と家庭 [17]

音楽評論家 吉川 鶴生

ヴァイオリン音楽と「絆」

ヴァイオリンの音色に酔う

サラサーテのヴァイオリン曲「ツィゴイネルワイゼン」※1を誰もがどこかで耳にしたことがあると思います。およそ、ヴァイオリン曲の音色がかもしだす哀愁的な抒情、あるいは華麗優美なリリシズムは、ヴァイオリンがリズム楽器ではできない流麗な旋律を奏でる楽器として適しているところから来ると言えますが、ヴァイオリンの名曲は非常に多く存在します。

いろいろな西洋楽器があり、それぞれの楽器の音色にそれぞれの魅力があるのは当然のことですが、音楽の世界を多彩に彩り、聴く者たちを魅了し、深い感動と喜びを与えてくれる器楽曲の中で、ポピュラーな楽器の代表格がピアノであり、ヴァイオリンであることはほぼ異論のないところでありましょう。ピアノ曲やヴァイオリンの曲が非常に多いことからもわかります。また、日本には庄司紗矢香さんや諏訪内晶子さん、千住真理子さんなど、非常に優れたヴァイオリン演奏家たちが多くいます。

ヴァイオリン協奏曲の有名なものと言えば、ベートーベンの「ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61」※2、メンデルスゾーンの「ヴァイオリン協奏曲ホ短調作品64」※3、ブラームスの「ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品77」※4、チャイコフスキーの「ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35」※5などが挙げられますが、そのほかにも、ヴィヴァルディ、モーツァルト、バッハなどの、実に多くのヴァイオリン協奏曲があります。作曲家も演奏家もヴァイオリン曲に熱心に取り組んできた証しです。

芸術創造に昇華された独身の苦悩

ベートーベンと並び称されることの多いブラームスですが、彼はベートーベンと同じく独身で生涯を終えました。彼の気難しい性格からすれば、対人関係、特に、女性に対する愛情の表し方はぎこちないものがあったと思われます。

大人との付き合いが苦手であったのと対照的に、子供に対しては優しい愛情を示したエピソードが残されています。散歩の好きなブラームスはいつも沢山のキャンデーを持ち歩いて子供たちに与えていました。純粋無垢な子供たちだけにはブラームスの心は開かれていたようです。何人かの女性に心を寄せて、結婚の機会もなくはなかったと思いますが、結婚までに至らないところにブラームスの性格が関係していたと言えるのかもしれません。

しかし、大人世界でも、親戚の者たちに対しては、惜しみなく金品を分かち与えていた気前の良いブラームスでしたから、身内の近い者たちへは例外的に心を開いて、愛情を示すことが出来たというのもブラームスの一面です。

いくら独身者と言えども、家族や親戚縁者は大切なものであり、心の支えであり、これらの人間関係のよしあしは、彼の人間らしい生き方、家族を基本とした平和な世界を展望していたのでしょう。

こうした、その内気な内面に充満したエネルギーはひとたび音楽創造に向かい始めると、多くの傑作を生み出すことになったのです。ブラームスの心境は、晩年、宗教的な世界へと沈潜していきました。自然と子供だけには格別に愛着を示しながら、大人世界には非常につれない素振りを見せることの多かった彼の性格がたどり着くべくしてたどり着いた至聖至美の神の世界に最後の救いを求めたのかもしれません。

ヴァイオリンの音色は「絆」に近い

ヴァイオリン

サン=サーンスの傑作「序奏とロンド・カプリチオーソ」※6はヴァイオリンの名手サラサーテのために書かれたものであり、非常に人気の高い作品です。一般的に、クラシックに限らず、ヴァイオリンは大衆音楽にも大いに威力を発揮していて、例えば、さだまさし※7などはヴァイオリンの音を彼の作品に多く反映させています。また、アメリカのロック・バンドのカンサスがヒットさせた「ダスト・イン・ザ・ウィンド」※8などを聞くと、曲の途中で入ってくるヴァイオリンの音色がこの曲に品格と優美さを与えており、ビューティフルロックの代名詞と言ってもよい仕上がりになっています。

ヴァイオリンは、弦を張った本体と弓と演奏者の三位一体から、楽曲を奏でる仕組みですから、ヴァイオリン音楽はこの三者の絆の音楽と言えます。ヴァイオリンの名曲を聴きながら、家族の絆、社会の絆、人類の絆を深めるという平和願望を祈りつつ……。

文中で紹介されている曲は以下のサイトから聴くことができます。
 (クリックすると、別ウインドウまたはタブで外部サイトが開きます。)

  1. パブロ・デ・サラサーテ 『ツィゴイネルワイゼン』
    Itzhak Perlman "Zigeunerweisen" Sarasate − http://www.youtube.com/watch?v=x8c_0B96v48
  2. ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61
    Itzhak Perlman Beethoven violin concerto − http://www.youtube.com/watch?v=ESpi9J-pt_w
  3. フェリックス・メンデルスゾーン ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
    メンデルスゾーン バイオリン協奏曲 第1楽章 庄司紗矢香
     http://www.youtube.com/watch?v=dskvPJdRDoE
  4. ヨハネス・ブラームス ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品77
    Brahms : Violin Concerto in D major op.77 − http://www.youtube.com/watch?v=0zlPe9g1Fvw
  5. ピョートル・チャイコフスキー ヴァイオリン協奏曲ニ長調 作品35
    Tchaikovsky : Violin Concerto in D major op.35 − http://www.youtube.com/watch?v=GAkw_Wi4yIo
  6. カミーユ・サン=サーンス 序奏とロンド・カプリチオーソ イ短調 作品28
    Saint-Saens: Introduction & Rondo Capriccioso (Isaac Stern)
     http://www.youtube.com/watch?v=p3kLEjv2_eI
  7. さだまさし 「交響楽」
    交響楽 / さだまさし − http://www.youtube.com/watch?v=UnBeEm1K-1s
  8. カンサス 「ダスト・イン・ザ・ウィンド」
    Kansas - Dust In The Wind
     http://www.youtube.com/watch?v=tH2w6Oxx0kQ#aid=P7HSgWSo8Gg