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ハングルはこんなに面白い! 〔2〕

筑波大学名誉教授 高橋 磐郎

最高の言語文字の可能性  〔2〕

一編 ハングルのすばらしい特性

(1)漢字からの解放

韓国語を勉強している、あるいはしようと思っている日本人は、ずいぶん多いようです。韓国語のことを”ハングル”と言うのだと思っている人がいますが、ハングルは、韓国語の”文字”のことを言うので、朝鮮王朝の第4代世宗王(在位1418〜1450)が、それまで漢字で表現されていた朝鮮語を、誰もが簡単に表現できるようにつくられた人工の表音文字です。

私がここで伝えたいことは、ハングルという文字がいかにわかり易く、効率よく、適切な構造を持っているかということです。

簡単なアルファベットに馴れている欧米人にとって、とにかく漢字は難しすぎるのです。漢字一つでも複雑で覚えるのが大変なのに、どれだけ覚えればよいか、に対する答えとしても、際限がないとしか言いようがないのです。中国では漢字が大分簡単化され、日本でも戦後当用漢字が定められましたが、人名に関しては元の難しい漢字が使われています。日本語を習う人にとって、簡単化された漢字も元の難しいのも両方覚えなければならず、かえって負担が大きくなってしまったのです。

ハングルは、漢字を使わないというだけでなく、その構造が優れているため、欧米人にとってはきわめてわかり易く、親しみやすいということは、グローバル化の現代において、見逃すことの出来ない重要なことと思います。ハングルの意味は、偉大(ハン)な文字(グル)ということですが、その言葉通り将来は世界語として使われるのではないかという気さえするのです。韓国ドラマに関心のない経済界や政界で活躍している人々も、ハングルを勉強しておかれると、将来、必ず多くの利点に恵まれるはずです。

ところで、漢字が欧米人にとっていかに難しく見えるかという逸話をお話ししておきます。

明治の頃ですが、ドイツに留学したある日本人が、日本の新聞を読んでいるのをドイツ人たちが覗(のぞ)き込んで、「これが日本の字なのか、こんな複雑な字を君は読めるのか」と言ったので、「ああ読めますよ」と答えると、「うーん」と唸(うな)って「まあ読むことは出来るかもしれないけど、書けるのか」と聞くので、「ああ書けますよ」というと、彼らは紙面にある一番難しそうな字(たぶん”藝”)を指で示して、「さあこれを書いてみろ!」と言って新聞を取り上げてしまいましたが、彼は、事もなげに”藝”を書いたのです。

さあ、これからが大変でした。彼らはこの字が新聞にあった字と同じかどうかをチェックするのに、よってたかって10分もかかったというのです。同じと確認され、「すごいじゃないか!」と褒められて、彼は「いや日本人なら皆できることです」と言ったのでドイツ人たちは、「わあ、日本人は皆天才だ」と驚嘆したという話です。

(2)ハングルの組み合わせ構造

ハングルは、日本のかなや英語のアルファベットと同様、表音文字ですが、その特徴は、少数の簡単な記号の組み合わせで作られているということです。母音に相当する10個は次のとおりです。

ㅣ [i] ㅏ [a] ㅑ [ja] ㅓ [ɔ] ㅕ [jɔ] ㅡ [ɯ] ㅗ [o] ㅛ [jo] ㅜ [u] ㅠ [ju]

これらは、忘れようにも忘れられないほど簡単で規則的です。ここで、都合上、最初の5個を”縦型”、のこりを”横型”と呼ぶことにします。

子音に相当する14個は次のとおり。

ㄱ [ɡ] ㄴ [n] ㄷ [d] ㄹ [l] ㅁ [m] ㅂ [b] ㅅ [s]
 ㅇ [ŋ] ㅈ [dʒ] ㅊ [tʃ] ㅋ [k] ㅌ [t] ㅍ [p] ㅎ [h]

すべてのハングル文字は、合計24個の記号の組み合わせで構成されているのです。これらの記号の発音の仕方を各記号の右に、発音記号で示しておきました。

子音はこの他に”濃音”というのもあって、たとえば、ㄱ、ㄷ、…などを2つ重ねて、ㄲ、ㄸ、…などとするものです。発音は、日本語の促音に似ており、つまるように発音しますが、特に新しい記号を必要とするものではありません。

ハングルの優れた点は、まさにこの”組み合わせ構造”にあるのです。これは他の言語文字に類を見ないものです。漢字も”へん”や”つくり”などの要素の組み合わせで出来ているとも言えますが、その要素は多数あって、組み合わせ構造も複雑多様で、容易には把握出来ません。一方、ハングルの組み合わせパターンは二つだけで、一つは子音を左に縦型母音を右に書く”左右型”。もう一つは子音を上に横型母音を下に書く”上下型”です。

【左右型】 가 [ɡa]、 지 [dʒi]、 …、【上下型】 도 [do]、 므 [mɯ]、 …

なお、ここで注意しておきたいことは、前に述べた10個の母音の二つ以上を結合させた”合成母音”と呼ばれるものもあり、これについては後に詳しく述べます。

横型と縦型の母音が結合された合成母音ㅢ、ㅚ、…が、子音と組み合わさるときには、この”左右型””上下型”の組み合わせが同時に起こるのです。

의 [ɯi]、 과 [ɡɯa]、 …