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ハングルはこんなに面白い! 〔3〕

筑波大学名誉教授 高橋 磐郎

最高の言語文字の可能性  〔3〕

一編 ハングルのすばらしい特性

(3)パッチムと合成母音

前回、ハングル文字の基本形をみてきましたが、これに味をつけるのが”パッチム”という子音の組み合わせです。これは音楽の装飾音符のようなもので、文字の働きを豊富にする効果を与え、同じ子音でも、特にパッチムと呼ばれているのです。パッチムは母音の左右型、上下型あるいは同時型のいずれのパターンにもその下側につけるのです。

갑 [ɡab] 돈 [don] 관 [ɡwan] (ㅂ、ㄴ …などがパッチム)

なおパッチムとして二つの子音を並べる場合もあります。멊 、있 …などとするものです。

ハングル文字は以上のいずれかの組み合わせ構造で出来るのですが、英語のアルファベット26文字、日本語のかな50音(実際は46字)と決まっているのに対して、ハングル文字数は何個と決まっている訳ではないのです。必要に応じていくらでも作り出せるので、決めておく必要もないわけです。実際に使われている数は恐らく数千になると思われます。このように基本記号はわずか24個なのに膨大な数になるというのも、この組み合わせ構造のお陰なのです。

パッチムの意味上の働きに対しては二、三編でいろいろ出てきますが、ここでは発音の面から考えておきます。

ハングルではこのパッチムによって、子音で終わる発音(いわゆる閉音)を表せるので、西欧言語の発音をうまく表現する事ができます。英語などでは、殆どの単語は子音で終わっています。takeなども文字としては終わりは母音ですが、発音はteikであって子音で終わります。日本語の単語はすべて母音で終わる(いわゆる開音)ので、英語などの発音を正しくは表現出来ないのです。

英語などの外来語が、日本同様韓国にも沢山ありますが、ハングルで表現すれば日本語よりぴたりと当てはまるので、ハングルが西欧人に親しみを与えるのです。

日本語では母音が5個しかありません。ハングルは10個の母音だけでなくそれらを結合させた合成母音も使うので、発音表現が極めて豊富になり、世界のどの言語もハングルで表現できると、韓国の人々は豪語しています。

われわれ日本人が”金”を韓国語で言おうとすると”キム(kimu)”となってしまって、韓国の人から”kimu”ではない”kim”ですよと注意されるのですが、子音留め、つまり閉音に馴れていないわれわれには、なかなか真似が出来ないのです。

つぎに、合成母音のことについてお話ししましょう。合成母音は全部で11と決められているのですが、どんな母音とどんな母音とが合成できるのでしょうか。これには母音の陽、陰ということが重要な観点になっているのです。

韓国では陽・陰の概念を非常に重要視します。国旗そのものが陽・陰模様を中心にしています。陽が右・上、陰が左・下なのです。これを表現するために右、上に点のある母音ㅏ、ㅗ、ㅑ、ㅛが陽母音、左、下に点のある母音ㅓ、ㅜ、ㅕ、ㅠが陰母音、それ以外ㅣ、ㅡは中性です。(今ではこの区別もだいぶ曖昧になっているようですが、おそらくハングルが作られた頃はこうだったに違いないのです。)

この陽・陰の問題は文法上いろいろなところに顔を出すのですが、合成母音の問題でもこれが決定的な役割を果たします。

図1
【母音合成ネットワーク】

図を見てください。陽母音が右に、陰母音が左に中性母音は中央にあります(ㅛ、ㅠは合成できない母音で除外されています)。線で結ばれているところが二重合成母音です。これで9個の二重母音が決まりました。3本の線で作られている三角形の中心に三重母音があり、これは三角形の頂点と対辺にあるものを合成したものです。頂点と対辺は3組ありますが(右側の三角形ではㅣとㅘ、ㅏとㅚ、ㅗとㅒ)、どの組で合成しても同一の三重母音となります。

陽陰は神の特性でもあり、その思想はもともと東洋の思想です。ですからその主要国家である中国、韓国、日本では文字を上から下に、右から左に流れるように、いわゆる縦書きにするのです。西洋文化やコンピュータの影響で中国や韓国では、左から右に書く横書きが多くなったようですが、日本では数学や理科の本をのぞいては縦書きが主流です。アラブ圏では文字は横書きのようですが書く順は右から左です。上下、右左の上下の方を重視すれば縦書き、右左の方を重視すれば横書きになるのです。

この母音合成ネットワーク図で、右側にある(合成母音を含めての)あらゆる母音の”点”を、上にある(右にある)ものを下に(左に)付け替えると、すべて左側にある母音に変わります。このようにこのネットワーク図は、左右まったく対称的に出来ていて実に美しい姿をしています。