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ハングルはこんなに面白い! 〔5〕

筑波大学名誉教授 高橋 磐郎

最高の言語文字の可能性  〔5〕

一編 ハングルのすばらしい特性

(5)漢字の改良こそがハングル

日本では漢字には音読みと訓読みがあり、訓読みは日本の古来の言葉、いわゆるやまと言葉を漢字に当てはめてできたものですが、韓国にも古来からの固有語と漢字語があり、後者には日本の音読みに相当するハングルが対応しています。日本の訓読みに相当するものはないので、原則的には漢字に対応するハングルは唯一つ、つまり漢字の読み方は1通りです。例外は、筆者の知る限り、”金”に2通りのハングル 김 と 금 が対応する例があるだけです。 

さらに強調しておきたいことは、日本では一つの漢字の音読みにいくつもの仮名文字が使われることです。”学”には”ガク”の2文字が、”教”には”キヨウ”という3文字が使われています。しかしハングルでは一つの漢字には必ず唯一つのハングル文字が対応して、学→ 학  教→교 となります。

もともと一つの漢字は1音節に対応しているため、漢字1にハングル1は自然な対応なのですが、仮名の場合は1音節に二つ以上を使っているのです。この漢字、ハングルの1−1対応は実は重要な意味を持っているのです。

仮名だけで書かれた文章は、日本人でもとても読めた物ではないのですが、ハングルだけで書かれた文(この頃はほとんどがそうなっていますが)を韓国人は何不自由なく読んでいるのです。その理由はまさにこの漢字とハングルの1−1対応にあるのです。一つの漢字はその持つ意味を一挙に与えてくれますが、それに一つのハングルが対応すればそれが漢字と同じ力を持つようになるのです。

漢字は一つの字が意味を持つから欧米英語圏にはない表意文字文化を創るのだといわれています。しかし英語にだって単語というものがあり、これは意味を持つから表意語ではないでしょうか。どこに違いがあるのでしょう。

英語の単語はa、b、c、…という一種の記号を集めてつくったもの、漢字はへん、つくり、かんむりなどの基本記号からつくられたもの、と考えると何処にも違いはなさそうです。しかし、そこには”次元”の違いがあるのです。英語の単語はアルファベットの1列の並び、つまり1次元配列であり、漢字は基本記号の平面的な2次元の配列なのです。

2次元配列の持つ情報量と1次元配列のそれでは圧倒的な差があるのです。したがって人間が一見して得る情報量は単語より漢字の方がはるかに大きいのです。漢字の優秀性はまさにここにあります。いままで誰もが気付いていなかったようですが、欧米文化と漢字文化の差は、表音文字か表意文字かではなく、1次元か2次元の差だったわけです。

しかし今まで述べてきたように、漢字はへん、つくりなどの基本記号がたくさんあるばかりでなく、その2次元配列の仕方が複雑多様でその構造を把握することが容易でなく、人々から敬遠されたのです。

ハングルは漢字と同様2次元配列でありながら、その基本記号も配列方法も自然で簡単で組織的で誰もが即座に覚えられるということは今まで見てきたとおりです。つまりハングルは漢字の持つ優秀性を持ちながらその構造を簡潔明瞭に改良したものであると言えます。ここにハングルこそ文字として最高だと言える根拠があるのです。

ハングルが作られた当初、漢字文化を尊重する学者たちからの猛反対があったとのことですが、反対者たちは以上のようなことを見抜けずに、漢字が失われるという現象面だけを見たのでしょう。

さて以上のような意味でも、漢字なれした日本人、あるいはその元祖である中国人にとって、ハングルは特に親しみ易いのです。特に日本人にとっては、韓国語と語順(syntax)が同じ(これはハングルの問題ではなく韓国語自体の問題ですが)なので、とても覚えやすいし、とくに同時通訳などは非常にやり易いのではないかと思われます。また漢字は極めて似た発音になります。全く同じと思われるものも多いのです。

この節の終わりに一つ注意しておくことがあります。漢字1文字はいくつかの例外を除けば一つのハングル文字に対応しますが、その逆は成り立ちません。一つのハングルに二つ以上の漢字が対応します。つまり同音異義に相当する現象が起こります。たとえば、전には前、展、全、伝…などが対応します。しかし前者(전자)、全部(전부)のように2字の熟語になると、に対応する前者・全部以外の熟語はまずないと思われますので、実用上あまり心配はないのではないでしょうか。


※ 例外としては、金に2通りのハングル김と금が対応します。またいわゆる頭音法則でㄹ音が弱まってㅇやㄴになるため、李が리から이に、羅が라から나に変わって、見かけ上二つ以上のハングルに対応するように見えますが、これらはやがて後者に統一されるでしょう。