機関誌画像

春夏秋冬つれづれノート

ジャーナリスト 堀本和博

始発電車から終電まで一日乗り放題の『青春18きっぷ』をフル活用した真夏の思い出

読者の皆さまは、この夏にどんな思い出を刻みましたか?

今年の夏は当初はエルニーニョの影響で猛暑とはならないという見立てでしたが、その影響が秋以降にずれて結局は5年連続の猛暑の夏となった。暦の立秋(先月7日)に秋の気配はなく、暑さが止むとされる処暑(しょしょ)(同23日)もしつこい暑さが残るなかで、今月は白露(はくろ)(8日)を迎えようとしている。白露は野草に宿るしらつゆなどに、秋の気配をひとしお感じられる頃というのだが、さて。

私の夏の思い出は立秋前の土曜日に、始発電車にとび乗ってから始まった。JR新宿駅で同世代の友人と待ち合わせ、中央線で一路西へ。早朝の車内は、徹夜仕事明けで顔に疲労の色を浮かべる人やリュックを背負う登山やハイキング姿の人などで座席がほぼ埋まった。高尾駅で乗り継いだ電車は、通過した立川駅6時45分始発の甲府行きだった。空き座席がなく、それなら立川駅で乗り継げばよかったのだが、後の祭り。新宿からほぼ真西に進む中央線が北西に進路を変える甲府駅で乗り継いだ松本駅行き電車が、諏訪湖畔の飯田線に乗り換える岡谷駅(長野県)に着いたのは午前10時半である。

飯田線はここから諏訪湖を源流に、伊那山地&赤石山脈と木曽山脈の間を太平洋に下る天竜川と平行して豊橋駅(愛知県)までを結ぶ。10時35分発の電車に、途中の天竜下り観光の乗船場がある天竜峡駅で乗り継ぐ1時間ほどを除いて、ずーっと乗りっぱなしで約7時間、豊橋駅着は夜の6時24分だった。天竜川の眺め、伊那盆地、天竜峡谷、山岳・山脈、リンゴ畑から茶畑に変わることで分かる県境の田園風景などは、ローカル線のテンポでただボーッと眺めていて、それだけで見飽きない。都会では味わえない非日常の時間が流れる。

それに伊那市駅、中央アルプス登山の駒ヶ根駅、佐伯泰英の人気時代小説シリーズ『交代寄合伊那衆異聞』(講談社文庫)の主人公の里である山吹駅、飯田駅、佐久間ダムの佐久間駅、徳川・武田の古戦場で知られる本長篠駅、野田城駅など窓外を眺めるだけでもいい駅も。乗り継ぎの天竜峡駅では、時計を気にしながら行水のようにして温泉で汗を流せたのは至福だった。こうして実に100駅近い、気の遠くなるような数の駅を巡ったのである。

豊橋からは浜松、沼津、熱海、品川と一目散に東海道線、山手線を乗り継いで渋谷駅に戻ったのがぴったり夜中の12時。郊外に向かう私鉄では、途中乗り換えの電車が最終電車になると車内放送していた。

鉄道ファンには「乗りテツ」と「撮りテツ(カメラ小僧)」とがある。乗りテツにとっては始発から終電まで1日乗り放題のJR「青春18きっぷ」をフル活用できた真夏の晴天の1日は、忘れられない思い出の宝物である。