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ハングルはこんなに面白い! 〔7〕

筑波大学名誉教授 高橋 磐郎

最高の言語文字の可能性  〔7〕

二編 日本語をハングル表記したら

(3)ヤ、ユ、ヨは母音だ!

今回は拗音の問題についてです。拗音はヤ、ユ、ヨを添え字として作られるものですが、その本質をよく見ると、ヤ、ユ、ヨは母音でなければならないという驚くべきことが起こるのです。

まず国立国語学院の表で、ヤ、ユ、ヨは야(ヤ)、유(ユ)、요(ヨ)…⑤
と書かれていますが、拗音はすべてこれらを母音として表記されています。
キャ=캬 、キュ=큐 、キョ=쿄 、シャ=샤 、シュ=슈 、ショ=쇼 …⑥

日本語の50音表では、ヤ、ユ、ヨは ヤ行ヤイユエヨの要素とみて、このうちイ、エはア行にもあって重複するので省いたのです。実はそれが母音の働きをしていたということは、ハングル表記をしてみてはじめて頷けるのです。

104音表
※ 機関誌掲載時、カ行に対応するハングルの表記、及び 
ガ行が抜けている誤りがありました。訂正しお詫び致します。

事実⑥にあげた例だけでなく、タ、ナ、ハ、マ、ラのどの行をとってもその子音にㅑ 、ㅠ 、ㅛ を付ければ拗音になります。仮名文字としては⑥に示したように、キ、シなど”イ”段が本体となり、ヤ、ユ、ヨが添え字となります。それでタ行では、ㅊ を子音とし、チャ=챠 、チュ=츄 、チョ=쵸 となりますが、それ以外は規則どおり、ニャ=냐 、ニュ=뉴 、ニョ=뇨 、ミャ=먀 、ミュ=뮤 、ミョ=묘 、リャ=랴 、リュ=류 、リョ=료 。

さらに先月号の②、③、④の濁音半濁音の行も同じように拗音化できます。

こうしてみると日本語の仮名は行がア、カ、サ、タ、ナ、ハ、マ、ラ、ガ、ザ、ダ、バ、パの13行、段がア、イ、ウ、エ、オ、ヤ、ユ、ヨの8段、合計13×8=104あるということになります。これらがハングルで子音13母音8の組み合わせで表せるということができます(104音表)。でもまだ ワ、ヲ、ンがありますが…。


(注)子音・母音の定義は辞書にはいろいろ書いてありますが、要するに子音は発声の瞬間に出る音、母音はその音を出し続けたとき残る音といえばよいでしょう。その意味ではヤ、ユ、ヨは母音とはいえませんが、前述のように音の構成全体からみれば母音と考えざるをえません。中をとって擬母音とでもいえば無難かもしれません。

(4)ワ、ヲ、ンの正体

はじめにワ、ヲを考えます。実は昔はこのほかにヰとヱがあって50音の中で、ワ(ウァ)、ヰ(ウィ)、ヱ(ウェ)、ヲ(ウォ)…⑦
と並べられていたのです。これはワ行と呼ばれていましたが、⑦の発音をみれば解るように ウ行の形をしています。しかしウは母音なので行の頭にはなれないはずです。

実は⑦に書かれた字は日本にはその名称すらない、けれどハングルにはしばしば出てくる、合成母音なのです(5月号参照)。

これらをその発音に忠実にハングルの合成 母音で表してみると、ワ(※1)、ヰ(위)、ウェ(웨)、ウォ(워)

実は国立国語学院の表では、ワ(와)と表されています。これは陽陰原則によっているものと思われますが、日本ではこうした原則には無頓着ですから上記のようにするのがよいでしょう。

このうち今使われているのは、ワ、ヲだけですが、国語学院の表にはヲもオと同じ오が使われています。したがって生き残っているのはワだけです。いずれにせよこれは、50音や104音表とは独立した合成母音として考えるべきものなのでしょう。

ときどき発音にこだわりをもつ人がいて、”会”とか”回”の発音はカイではなく、クヮイなのだとやかましく言う人がいます。こんなときはこの위 を使って귀 と書けばご本人は満足するでしょう。将来は世界のどんな言語もハングルで書こうとすればこのくらいは朝飯前というところです。

さて最後に”ン”が残りました。50音から疎外されひとりぽっちでいる”ン”。そのくせ実際に文中で使われるときは、誰かの後に付いてないとひとり立ちできない”ン”。日本の仮名はすべて母音止め、つまり開音なのですが、実はこの”ン”が唯一の子音なのです。そして他の文字に付いてでないと存在し得ないもの、これはまさしくパッチムとしてのㅇそのものの性質です。つまり ン=ㅇだということがわかりました。そして104音とワとヲのどれにもパッチムとして付けて使われるのです。캉 (カン)、칭(チン)、깅(ギャン)、[※2](ワン)。


(注)陽・陰原則でみたように母音には陽性母音と陰性母音とがあり陽母音と陰母音とは合成できません(6月号参照)。なお国語学院の表では”ン”を”ㄴ”で表していますが、発音上”ㅇ”で表す方が適切です。また促音は国語学院ではパッチムとしてㅅを使うと決めていますが、日本では2節で導入した<を使うのがよいでしょう。
例)[※3]사텡(キッサテン)、[※4]파(ラッパ)

以上で仮名文字のハングル化の問題はほぼ考えつくしたので、次回は漢字のハングル化問題を考えてみましょう。


※1:우の右にㅏの文字 ※2:※1の文字の下にㅇ ※3:키の下に<の文字 ※4:라の下に<の文字